インドのトライバル・タトゥーを消滅から守れ

Baiga Tribal Women of Madhya Pradesh, they are known for their unique tattoos that they make all over their bodies. Image from Wikimedia Commons. CC BY-SA 4.0

マディア・プラデーシュ州のバイガ族の女性たち。全身に入れた独特のタトゥーで知られている。写真はサンディ・アンド・ビジャイ(Sanday and Vyjay)ウィキメディア・コモンズより CC BY-SA 4.0

タトゥーは南アジアをはじめとする世界中の先住民族・部族社会にとって欠くことができない役割を果たしている。自分を美しく飾り立てるために、また他の部族の男たちの「邪悪な目」から逃れるために、いずれにしても部族社会に生きる女性たちは、自然の力や部族の歴史とその霊的信仰に影響された紋様のタトゥーで全身を飾り立てている。

若い世代間でファッション・タトゥーの人気が広がる一方で、先住民族・部族社会では伝統的なタトゥー文化は衰弱している。他部族や外来者と交流する機会が増え、部族の文化が他文化と混合し変容したために、彼らのタトゥーはさらに消滅の恐れが強まっているのだ。アーミト・アジェールをはじめとするタトゥー・アーティストたちは、このインドのトライバル・タトゥーが絶滅する前に、描き写して記録に残そうと懸命な努力を続けている。 

タトゥー・アーティストのアジェールはネパール出身でデリーで活動し、インド系諸部族のタトゥーの紋様調査と収集に打ち込んでいる。部族の女性たちがまとっている消えかかったタトゥーを記録し描き写すだけでなく、インドのトライバル・タトゥーについての本を出版したいとも思っている。 

顧客にタトゥーを入れるアーミト・アジェール。本人提供写真 掲載許可済

サンジブ・チャウダリーは最近ネパールを訪れたアジェールと連絡が取れ、インタビューできた。以下はそれを簡潔にわかりやすくまとめたものだ。

グローバル・ボイス(以下GV): ご自身のことを少し教えていただけますか。タトゥーを仕事にされるきっかけは何でしたか。 .

アーミト・アジェール(以下AA): 実は私は画家としてスタートしたんです。何人かのインドの巨匠のもとで絵画を学びました。2014年後半に父親が亡くなり、私を取り巻く状況がガラッと変わったのです。父の葬儀を執り行うため、ネパールの生まれ故郷に帰りました。母のことを考慮して、時々母を訪ね一緒に過ごせるよう自由がきく仕事につこうと決めたんです。 

それに、父に何かを捧げたいとも思ったんです。父の思い出になるようなタトゥーをデザインして、タトゥー・スタジオを探しにデリーにやってきました。たまたまインキン・タトゥー・スタジオに行き着いたんですが、ここはタトゥー・ファンたちの間で最も人気があるデリーのスタジオのひとつなんです。タトゥーを入れてもらっている間、そこのアーティストがこのスタジオで一緒にやらないかと誘ってくれたんです。

どうしようかとじっくり考えてみて、自由な時間が持て融通もきくだろうと思い、そのスタジオで働こうと決めました。私が習ったアーティストはマックスです。 

GV: 伝統的なタトゥーをえらび、その復興をめざしたのはなぜですか。

AA: 2年間ほどタトゥーを彫ってきましたが、全てファッション・タトゥーでした。でも「こんなことはしたくはない」と言う声が心の中で聞こえたんです。他のタトゥー・アーティストを真似たことはなかったし、常に自分独自のものを目指していました。 

インドにどのような伝統的なタトゥーがあるのか知りたくなりました。こうしてインドのトライバル・タトゥーの探究の旅が始まったのです。ネットで検索すると、豊かなタトゥー文化を持つバイガ族が見つかりました。あるお得意様の紹介で、運よくバイガ族出身のシャンティバイさんと連絡が取れたのです。彼女を訪ね、部族のタトゥーの伝統を教えてもらおうとしました。 

次に北チャッティースガル州のスルグジャに向かい、その後ビール族の人たちにも会いました。彼らは西インドに住む部族のひとつです。続いてマディア・プラデーシュ州に行き、中央インド中のあらゆる部族を訪れました。そして北東インドの部族、ガロ族のところへ向ました。 

 

 

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イーパンというのはインド・ヒマラヤ地域のクマーウーンを起源とする伝統的で儀式的な絵模様です。何か特別な日や家で儀式を行ったり先祖を祭る時にこの絵模様を描きます。この絵模様は悪運を退け、幸運を呼ぶと信じられています。幸運にもそんなインドの伝統的な絵模様をタトゥーに入れる機会を得ることができました。信頼に感謝。アナーニャ(Ananya)

この記事もご覧ください: The Indigenous Tharu People of Nepal Risk Losing Their Once-Mandatory Art of Tattooing 

GV: トライバル・タトゥーとファッション・タトゥーの違いは何ですか。

AA: 両者はデザインが完全に異なっています。トライバル・タトゥーの紋様は信仰体系に基づいています。その紋様を引き継ぎ信仰を次世代にも伝えていくのです。何世紀も同じタトゥーを入れ続け、変わらない文化と伝統を守っています。同じ紋様と題材なんです。 

しかしファッション・タトゥーの場合、デザインは個人の創造力に任されています。臨機応変でその人次第で変わるんです。 

GV:インドのたくさんの部族を調査されていますね。珍しいタトゥーのデザインについて何か話してくださいませんか。 

AA: サーグジャ族の人々はサーグジャ・ガドナという珍しいタトゥーの紋様を入れています。「オテイ」というデザインがあり、それは子宮と女性的エネルギーを意味しています。 

私が心惹かれたもうひとつのタトゥーは「サティ・ガドナ」、つまり友情を証明するタトゥーです。もし友人がいて2人で一緒にタトゥーを入れようと思ったら、友人とお互いにタトゥーを頼みあってその代金を払わなければなりません。 

GV: 部族の人たちはデザインをどのように選ぶんですか。その人の一生とどんな関係があるんですか。 

アーミットは部族のタトゥー・アーティストを訪ね習っている。写真はアーミト・アジェール 使用許可済

AA: バイガ族の例を見てみましょう。女の子の思春期前、たいてい8歳か10歳のときに額にタトゥーを入れます。様々な紋様のタトゥーで女性であることを表現し、少女が大人に近づいていることを自覚させるのです。結婚してよい年齢になると、家庭を切り盛りし家族の面倒をみることが求められるでしょう。

その後15歳から18歳になると、背中にタトゥーを入れることができます。男性を惹きつけるためにです。バイガ族の女性のドレスは背中のタトゥーが目を引くようにデザインされています。

次にタトゥーを入れるのは両手です。1年以内に片手ずつ入れます。手のタトゥーを見て、その女性は部族内の現役世代として儀式や行事に参加できることを自覚するのです。

女性が結婚すると両足にもタトゥーを入れることが許されます。あらゆる場面で一人前扱いされるということです。子供が生まれると胸にタトゥーを入れます。この胸のタトゥーは母親であることの証明です。不妊の女性は胸にタトゥーを入れることができません。そんな場合は養子を迎えてこのタトゥーを入れることができます。子ども時代から成熟した女性へとまさに人生が紋様とともに一巡りするのです。

GV: 他の部族にも独特のタトゥー文化がありますか。

AA: ビール族の女性たちは邪悪な視線から自分を守り、より魅力的に見えるように顔にタトゥーを入れます。 

ネパールのソウラハ村出身のタルー族の女性の大半は、孔雀を意味する「マジュール(majur)」をデザインしたタトゥーを入れています。部族内ではその当時、孔雀は唯一の美の象徴だったので、女性たちも孔雀のように美しくなりたいと願ったのです。 

GV: 今後の計画を教えてくださいませんか。

AA: インドのトライバル・タトゥーのデザインをひとつにまとめたいと思っています。人々の体に入れられたタトゥーの紋様は不鮮明なので、描き写して最も完全な状態で見れるように1冊の本にしたいのです。そしてトライバル・タトゥーのアーティストたちが世界中で認められることを願っています。 

知識は集約し保存するだけでなく、広く伝播されてこそ守ることができるのです。私たちの豊かな文化はすべて記録に残すことで共有されることを、みなさんにわかって欲しいのです。 

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