強制送還に直面する、タンザニアで暮らすブルンジ難民

コンゴ民主共和国南キブのルゼンダにあるブルンジ難民キャンプの航空写真。2015年8月写真クレジット: MONUSCO/アベル・カバナ経由フリッカーCC BY 2.0.

2019年8月、ブルンジのパスカル・バランダギエ内務大臣がタンザニアの難民キャンプを訪れた。目的は、ブルンジでは、ピエール・ンクルンジザ現大統領が3期連続の立候補を表明したのをきっかけに激しい抗議活動(2015年大統領選をめぐる混乱)が起きたが、現在では「平和と安全」が戻っていると、ブルンジ難民に帰国を呼び掛けるためだった。

国連は、この地域(訳注:ブルンジ周辺国であるルワンダ、ウガンダ、タンザニア、コンゴ民主共和国)において34万のブルンジ人を難民登録しているが、そのうちの18万人以上がタンザニアで暮らしている。

ブルンジ政府は2020年の選挙を前に、国際社会に平和と安全を宣伝しているが、国連反政府組織に加えて様々なメディアは、ブルンジ公安局が、政府批判反対意見を持つ者を厳しく取り締まり続けていると訴えている。それにより多くの野党党員、活動家、ジャーナリストが祖国から逃れた。

ブルンジ政府は、野党との地域的和平調停を目指す対話を拒否した。その結果生じた政情不安と経済制裁により、ブルンジ経済は壊滅状態に陥り、国際危機グループは「恐れの風潮」が生じたと述べている。

タンザニア政府も、ブルンジ政府の平和が戻っているとの意見に同調し、難民に帰国を呼び掛けている。8月25日、ブルンジとタンザニアの両政府は、10月1日から毎週、定期的にブルンジ難民を帰還させ始めることに合意したと発表した。その後、アムネスティ・インターナショナルは、その予定は前倒しされ、9月中旬から「難民の同意の有無にかかわらず」強制送還が開始されると報じた

8月25日、タンザニアのカンギ・ルゴラ内務大臣は、ブルンジ難民の帰還を妨害する人々はジョン・マグフリ大統領政府の「怒りを買うだろう」と語った

重要なことは、ブルンジとタンザニア両政府による難民帰還協定は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との合意なしに、両国間だけで調印されたことだ。昨年、UNHCRと両政府は、毎週2,000人の難民が自主帰還すると想定したが、その思惑通りとはならなった。

非常に残念なことではあるが、#Burundiと連携して、今後、ブルンジには平和が訪れると国際社会を欺いている。平和ではない母国にブルンジ難民を強制帰還させることは、国際難民条約に違反するだけでなく、非人道的な行為である。 https://t.co/9FroSk188V pic.twitter.com/I79rfy5bQU
— デオグラティアス・ムニシ(@DeoMunishi) 2019年9月9日

ブルンジのイワク新聞は、バランダギエ内務大臣はUNHCRの活動は不透明で、難民の帰還を「長引かせている」と批判したと報じた。また、SOSメディアス・ブルンジによると、内務大臣は8月27日の記者会見で、帰還難民の人権尊重に取り組むと語った。

タンザニア政府は、ブルンジの「国内の安全は戻ってきている」という談話に同調している。2015年の政治危機の後、ブルンジのンクルンジザ大統領が初めて訪問した海外の地は、タンザニア国境を少し越えた場所だった。難民は、タンザニア政府から「自主的」帰還の申請をするよう圧力をかけられていることが、長期に渡って報告されている。

タンザニアは、ブルンジにおいて政情不安が続いているにもかかわらず、2012年にも、ブルンジ難民同じく 高圧的に送還しようとした。この時、特に標的となったのは、ムタビラ・キャンプに暮らす難民であった。

難民キャンプでの拘束

ブルンジ難民は、主にタンザニア北西部にある3つの難民キャンプ(ニャルグス、ムテンデリ、ンドゥタ)で避難生活を送っているが、移動や物資の販売などに多くの制約があるため、さらに厳しい生活を強いられている。

キャンプで暮らすブルンジ人の大半がUNHCRに難民登録されている。しかし、国別プログラムによる難民登録数は4万5,000人で、タンザニアには何十年も長期滞在し、すでに援助を受けていないブルンジ人は4万2,200人いる。そして、7月、国際移住機関も、ブルンジ国内には10万9,372人もの国内避難民(訳注:国境を越えずに国内で避難生活を送っている難民)がいると発表した。

ブルンジの内務大臣によると、タンザニアのキャンプには15,000の難民が収容されている。彼らを含めた多くの難民が難民未登録のため、強制送還されるリスクにより晒されている。これまで数千人の難民が帰還しているものの、UNHCRは、2019年に支援を受けてバスでブルンジに帰還した難民の数は2018年の数字よりも少なく、いまも難民が続々とタンザニアに避難してきている状態だと発表した

UNHCRのキャンプでは、難民は十分な配給も受け取れず、教育の機会(教師、教室、教材など)にも恵まれないという、厳しい現実に直面している。しかも、UNHCRでは、このように世界から見放されたようなブルンジ難民の支援に必要な資金のうち、たった22%しか調達できていない。キャンプ周辺では、薪を集める難民が正体不明暴徒に狙われる事件も起きており、難民は常に危険と隣り合わせの生活を強いられている。

ノン・ルフ―ルマン

UNHCRとNGOは、難民の強制送還反対している。UNHCRのダナ・ヒューズ報道官は、帰国を望む難民を支援したいが、ブルンジの現状は依然として「帰還を促せられる状態ではない」と語っている。

ノン・ルフ―ルマンとは、1951 年の難民の地位に関する条約に明記されている国際法上の原則であり、迫害を受ける危険のある国へ強制的に帰還させることがないように難民を保護している。

2017年9月、UNHCRとタンザニア、ブルンジの両政府間の連携により、自主帰還への支援が正式に開始された。現在、自主帰還した難民はのべ7万5,000人で、帰還者はタンザニアからが「圧倒的多数」を占め、帰還後は国境付近で生活している。

しかし、UNHCRでは、いまだに毎月、何百人という人々が故郷を離れコンゴ民主共和国などへの亡命申請があるため、周辺国に国境を開放し、適切な難民支援を行うよう呼びかけている

ブロガーのジャン・マリー・ンタヒムペラ(Jean Marie Ntahimpera)は、「タンザニアは難民を脅かす代わりに、タンザニア政府は自分たちの社会に彼らを受け入れるべき」で、それは、難民にも難民受け入れ国にとっても有益であると主張している。

帰還に伴うリスク

2020年の選挙を前に、政治的緊張が高まり、人権侵害が報じられ、経済的困窮の中、難民は自分たちの身の危険度がさらに高まると考え、帰還への警戒感を募らせている。彼らは、反政府支持者、特にコングレ・ナショナル・プル・ラ・リベルテ(CNL)党への攻撃、およびCNL内での党内闘争が続いた場合、自分たちがひどいけがを負ったり、死亡したりする危険があると危惧しているのだ。

ブルンジの人権団体リーグ・イテカは、2019年、264人(特に野党支持者)が殺害され、その多くの遺体が公の場所に放置されていると訴え、2015年以降、576件の強制失踪事件があることも証拠を示し公表した。また、女性や子どもが政治的暴力の犠牲となる状況についても言及している。

国連調査委員会の専門家による9月4日付け最新報告書では、ブルンジは、恐怖の風潮によって「穏やかそうに見えても緊張が持続している状態」であることに言及している。人権侵害は政府の反対派や批判者に対して容赦なく行われており、2020年選挙が公正に実施される信頼性は低い。報告書によると、治安部隊と与党青年団インボネラクレが人権侵害行為の大部分を行っていて、攻撃対象の大多数が最近帰還した難民たちである。ブルンジ大統領顧問のウィリー・ニャミットウェは、この報告書をブルンジを情勢不安に陥れたい人々の嘘として否定し、の報告書に対しても同様の反応を示した。

ブルンジの人権侵害の被害者を擁護する弁護士集団CAVIBは、不本意な母国への帰還を阻止するために、地域レベルでの法的手段を取ることを計画していると述べた。それに対して、ブルンジの内務大臣は、政府側が争う姿勢であり、勝利するだろうと反論した。

この声明の直後、SOS メディアス・ブルンジ は 、無署名のビラがキャンプ内に配布されたと報じた。ビラは、難民が自宅で暴力を受ける危険性があり、タンザニアから他国に亡命する申請の手続きをすることを呼びかけるものだった。

国を逃れたブルンジ難民の中には、政府と争っている野党連合であるCNARED(National Council for the Respect of the Arusha Agreement:アルーシャ協定を尊重する国家評議会)の亡命中メンバーがいる。最近、何人かのメンバーは態度を変え、政府から安全の保証を取り付けているので、2020年の選挙に向けて帰国すると述べた。しかし、ンクルンジザ大統領は、政治的動機があると考えられる亡命者34人に対する逮捕状は、未だ失効していないとしている。

反大統領派には政府と拮抗する力はなく、国際的注目度も低いため、ブルンジ政府が彼らと妥協する気配はない。


校正:Moegi Tanaka

 

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