(原文掲載日:2022年6月29日)
この記事は、デシスラバ・ディミトロバとネベナ・ボリソバによる全3回シリーズの第2回。ブルガリアの異なる地域に暮らす3名の女性起業家たちは、各々どのようにして伝統料理を復活させたのか。またその活動が、今や世界規模となっているスローフード運動の後押しを得て、いかにして観光客を増やし、過疎化に立ち向かったのかを伝える。
タルハナはペルシアに起源を持つ食べ物である。ヨーロッパ南東部および中東で作られ、食されている。一般的にはパスタの一種で、サワードウを使って作られる。サワードウのベースは、小麦粉などの穀物の粉にヨーグルトを混ぜたもの(白タルハナ)、もしくは小麦粉などに果物や野菜を混ぜたもの(赤タルハナ)を発酵させてから乾燥させたものである。今日では、この伝統的な郷土料理を知る人が極めて少なくなったとはいえ、ほんの数十年前まではブルガリアのストランジャ山、サカール山、ロドピ山脈あたりの家庭において、日常的に作られていた。
テメヌシュカ・マテバさんが子供の頃によく祖母と過ごしたブルガリア南部にあるプレブン村でも、タルハナを使ったさまざまな料理を日常的に作っていた。年月は流れ、当時を懐かしく思ったテメヌシュカさんは伝統を復活させ、守り続けていこうと誓った。
„Траханата бе закуска сутрин през цялата зима, но баба я добавяше и към всяко вече готово ястие ? като поизстине, все поръсваше. Сега разбирам, че го е правила, за да ?подсили“ храната, запазвайки и пробиотичните свойства на траханата. Например, на кисело мляко ще сложи малко, ще си надробим и ще ядем. На готов фасул, вече изстинал, и там поръсваше!“
タルハナは冬を通して、私たちの朝食でした。さらに、おばあちゃんは作っておいた料理すべてにタルハナを足すんです。必ず料理が冷めてから、タルハナを振りかけていました。今はその意味がわかります。冷めてから足すことで、タルハナの持つ体に良い菌が死滅しないようにしていたのです。そして、その効能を料理に「プラス」していたのです。昔の人は本当に賢いですね。
タルハナのレシピは地域ごとの特徴を反映しているのだと、テメヌシュカさんは言う。例えば、さまざまな野菜が育つ村では、タルハナを作る際に野菜を生地に混ぜる。また、羊の繁殖で生計を立てている村では、タルハナにヨーグルトをたくさん入れる、と言った具合だ。
テメヌシュカさんの作るタルハナは、またひと味違う。ヨーグルトを加えず、果物や野菜も加えない。そのタルハナの生地になるサワードウの作り方は次のとおりだ。水にホップ、トウモロコシ、ヒヨコマメ、レンズマメを入れる。水が沸騰して材料が浮いてきたらそれを取り出し、ざるなどで濾す。濾した材料にヒトツブコムギ粉とライ麦粉を半分ほど加え、混ぜる。そうしてできたサワードウは寝かせ、膨らむのを待つ。膨らんだら残りのヒトツブコムギ粉とライ麦粉、「ブルグル」を加え、混ぜる。
タルハナ作りに欠かせないのが、ヒトツブコムギから作った「ブルグル」である。(ブルグル、サワードウ、ヒトツブコムギ粉などを混ぜた)生地ができたら暖かい環境で2、3日寝かせ、膨らませる。最後に、膨らんだ生地を「ダルモン」と呼ばれる目の粗いこし器で濾す。そうしてできた粒状の生地を天日干しした後、紙や布でできた袋に入れ、冬の間保存する。使用する穀物だが、テメヌシュカさんは個人的にヒトツブコムギとライ麦を好んで使う。この2つは、農薬を使わなくても育てることができる作物だからだ。
タルハナとは、ヨーグルト、果物、野菜、サワードウなどを発酵の作用により、その食材が持つ体に良い栄養素をそのままの状態で保存するための知恵である。タルハナは通常、収穫後の夏に作られるが、その種類は2つある。いわゆる「白タルハナ」と「赤タルハナ」だ。タルハナは加熱処理をしないので、乳酸菌を豊富に含んだ「生きた食べ物」と呼んでも良いだろう。
その昔、タルハナは飢えをしのぐためのものだったが、今日ではかつての文化を伝える役割を果たしている。
Започнах да приготвям трахана, откакто имам внуче. Замислих се, че сега, когато съм баба, е време да предам на децата си онова, което съм запомнила от моята. В продължение на години опитвах да я възстановя такава, каквато я помня.
私がタルハナを作るようになったのは、おばあちゃんになってからのことです。祖母から学んだ知識を、今こそ次の世代に受け渡す時だと思ったからです。そう思い立ってから何年かして、思い出の味を再現することができるようになりました。
テメヌシュカさんはタルハナを広めようと奮闘しているが、食品の安全に関する規制もあり、依然として課題は多い。タルハナは料理として正式に登録されていないため、飲食店での提供が難しいのだ。だが、テメヌシュカさんはそんな困難にもめげず、イバイロブグラッド地区でスローフード・コミュニティを立ち上げた。さらに、ソーシャルメディア上のグループを活用して、タルハナをより多くの人に知ってもらおうと努めている。
最近になって、タルハナを食べた人の多くが、作り方を学びたいと言ってくれるようになった。歴史ある伝統料理を大事に思ってくれる人々のために、テメヌシュカさんはプレブン村で体験の場を設けようと考えている。そうした努力が実を結び、やがてブルガリアの食卓にタルハナが戻ってくることを願っている。
この記事は、自分たちの伝統文化を取り戻すため、ブルガリアの伝統料理を復活させようとしている人々について書いた全3回シリーズである。過疎化の進む地域で活躍する女性起業家を一人ずつ紹介する。本シリーズは以下の3記事で構成されている。
– 第1回:イアボルニッツァ村の「野生のハーブ編」
– 第2回:プレブン村の「祖母の味『タルハナ』編」
– 第3回:アンティモボ村の「忘れられたおばあちゃんの味編」