ブルガリアの伝統料理を訪ねて 第3回:「忘れられたおばあちゃんの味」編

(原文掲載日:2022年6月30日)

ブルガリアの伝統料理。写真はツェツァ・フリストバさんの許可を得て使用。

この記事は、デシスラバ・ディミトロバとネベナ・ボリソバによる全3回シリーズの第3回。ブルガリアの異なる地域に暮らす3名の女性起業家たちは、各々どのようにして伝統料理を復活させたのか。またその活動が、今や世界規模となっているスローフード運動の後押しを得て、いかにして観光客を増やし、過疎化に立ち向かったのかを伝える。

イアボルニッツァ村アンティモボ村プレブン村の位置を示したブルガリア地図。出典:Wikipedia(CC BY-SA 3.0)

ツェツァ・フリストバさんは1974年以来、ブルガリア北西部にあるアンティモボ村に暮らしている。ブルガリア北西部は、EUの中でも最も貧しいとされている地域である。しかし、ドナウ川から1キロほど離れた場所にあるこの村は、美しい自然とまばゆいばかりの景観に恵まれている。この地域では昔から漁業を生業(なりわい)としていることから、ブラフ人(訳注:ワラキア人とも呼ばれる)の伝統料理である「サラムラ」などの魚料理が多い。

人数はわずかだが、過疎が進むこの村(この地域ではどの村も同じような問題を抱えている)を伝統料理や伝統文化を通じて活気づけようとする人々がいる。ツェツァさんもその一人である。彼女はまた、コミュニティセンター(ブルガリア語で「チタリシュテ」という)で事務員をしている。40年前までは2,300人ほどいたこの村の人口は現在、450人ほどまでに減少している。

Tsetsa Hristova

ツェツァ・フリストバさん。写真は本人の許可を得て使用。

„Селото бе към 2300 жители. Няма да забравя гълчавата на хората и добитъка сутрин и вечер. Хора с каруци, трактори, мотики на рамо отиваха на полето, градините се огласяха със смях и настроение, ливадите бяха пълни със стада крави, овце, кози. Вечер, като се прибираха, бе неописуемо ? блеене от всеки двор на агънца и яренца, очакващи майките им да се приберат от паша, детски гласове огласяха до късно вечер мегданите. Всяка неделя духовата музика свиреше на площада, хората излизаха като на празник.“

以前は、2,300人ほど暮らしていたのです。当時は朝晩、大勢の人と牛とでにぎやかだったのを今でも覚えています。荷馬車やトラクターに乗って畑に向かう人々や、庭にこだまする笑い声を思い出します。牧草地は牛や羊、ヤギの群れであふれていました。夕暮れ時になると、放牧から帰ってくる母親を待つ子羊と子ヤギの鳴き声が、日暮れまで外で遊んでいる村の子どもたちの声と交じり合って聞こえてきました。毎週日曜日には、中央広場で音楽の生演奏があったのですが、みんなお祭り気分で聞きに行ったものです。

学生がいなくなって学校が閉鎖されると、コミュニティセンターが村で唯一の集いの場となった。ツェツァさんはここで他の地元住民の協力を得ながら、民族舞踊などの伝統文化やかつて教会が行っていた宗教行事を復活させるといった活動を行っている。

ツェツァさんは地元料理を復活させ、保護するために、伝統料理クラブ「忘れられたおばあちゃんの味」を立ち上げた。クラブでは、ルーマニア南部のワラキア地方から数々のレシピを集めるという活動もしてきた。ツェツァさんによれば、同じ料理でもルーマニア側とブルガリア側には類似点(料理の基本部分)と相違点(見た目とスパイスの使い方)があるのだという。

クラブは、13人の中年男女で構成されている。若者をメンバーに引き入れようと試みてはきたものの、うまくいっていない。焚火(たきび)で料理をしたり、観光客相手に地元の工芸品制作を実演したりする地域イベントは、コロナウイルスの流行で次々と中止に追い込まれた。パンデミックが終わっても活動を続けていくのに一苦労している。

「レシピ本を出版することも考えているのですが、すべてのレシピがこの地域固有のものと言えるかどうかはわかりません。でも、大部分はそうです」と言いつつ、ツェツァさんはブラフロール(米や肉をキャベツで巻いたもの)などこの地域固有の料理をいくつか挙げた。

„Например папицата ( прави се от сварени кисели сливи, домати, люти чушки, копър и чесън) се ползва за овкусяване на супи, сармички, но е и превъзходно средство за изтрезняване ). Също ? агнешка главица, просеник, запържени хапки от качамак, трезве чорба ( прави се след големите празници за разтоварване след преяждане). Те са позабравени, но предвид на интереса към тях по време на различни изяви, смятам, че ще могат да се популяризират и да са достъпни за всеки.“

例えば、パピッツァ(酸味のある青プラムをゆで、トマト、唐辛子、ディル、ニンニクを加えた調味料)はスープや巻き料理などの味付けに使います。他には、子羊の頭やプロセニク(訳注:トウモロコシの粉から作ったパン)、揚げたカチャマク(訳注:コーンミールで作ったマッシュポテトのようなもの)などのトウモロコシをベースにしたもの、酔い覚ましのスープ(クリスマスや新年のお祝いで酒を飲み過ぎた際に飲む)があります。こうした料理は既に忘れられつつありますが、興味さえ持ってもらえれば、みなさんにとって身近な料理になるだろうと思います。

ツェツァさんは、さらにこう続ける。「こうした料理は、何世代にもわたり、うれしいときも悲しいときもどんなときでも、食卓にあがってきました。そしてレシピをみれば、興味深いかつての日常をうかがい知ることができます。例えば、昔は料理に使われる肉の量でその家の裕福さがわかったのです」。

5月になると、村人たちの心は浮き立ちます。2010年以降、毎年開催されている「国際民俗フェスティバル」があるからです。ブルガリアだけでなく、近隣のセルビアやルーマニアからも参加者が訪れます。私たちの料理クラブも3年前からこのイベントに参加し始めました。

„Стараем се да приготвяме храна в стари съдове ? казани, глинени гърнета, тигани. В зависимост от това, което ще представим, всеки се заема с конкретна задача ? замесване на тесто, рязане на зеленчуци, кълцане на месо (за сарми) или други ястия, палене на огньове, осоляване на рибата и какво ли още не. Тръпката е неописуема при тези приготовления, а когато видим задоволството на хората, опитали от ястията, удовлетворението е пълно.“

大鍋や土鍋、フライパンなどの料理道具は、昔と同じものを使うようにしています。クラブのメンバーは各々異なる役割を担当します。ある人は生地を練ったり、別の人は野菜や肉を切ったりという具合です。私たちの作った料理を食べた人が満足している顔を見ると、このうえなく幸せな気分になります。

私たちに託された遺産

テメヌシュカさん、ルキエさん、ツェツァさんの3名にお会いして、彼女たちの語る歴史ある伝統とレシピは不滅なのではないかと感じた。しかし、現実はそうではない。その活動は、地域だけでなく国レベルでの支援が必要である。支援にあたっては、郷土料理の作り手が手軽に情報発信できる仕組みや、市場参入が容易になるような法整備も欠かせない。

校正:Shigeru Tani

 

この記事は、自分たちの伝統文化を取り戻すため、ブルガリアの伝統料理を復活させようとしている人々について書いた全3回シリーズである。過疎化の進む地域で活躍する女性起業家を一人ずつ紹介する。本シリーズは以下の3記事で構成されている。
第1回:イアボルニッツァ村の「野生のハーブ編」
第2回:プレブン村の「祖母の味『タルハナ』編」
第3回:アンティモボ村の「忘れられたおばあちゃんの味編」

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