[ポルトガル語の原文記事は2013年12月28日に掲載されました。]
2013年12月17日、オランダのハーグにある国際司法裁判所(ICJ)で、東ティモール(訳注:インドネシア、オーストラリアを隣国に持つ太平洋の小共和国。旧ポルトガル植民地)とオーストラリアとの法廷闘争が始まった。東ティモールはオーストラリアをスパイ容疑とティモールの天然資源に対する主権の侵害で訴えた。
裁判の焦点は東ティモールによる告訴理由だ。それによれば、同国とオーストラリアは2004年、ティモール海の石油、ガス資源をめぐってティモール海における海洋諸規定に関する条約(CMATS)の交渉中だった。このときオーストラリアは不正にティモール海の石油、ガスに関する機密情報を入手し、これが東ティモール側の交渉に不利に運んだ可能性があるという主張だ。
東ティモール(別名ティモール・レスト)が2013年12月17日、国連の最高司法機関であるハーグの国際司法裁判所にオーストラリアを提訴 して裁判は始まった。東ティモールは、裁判開始直前の12月初めにオーストラリア政府が、条約をめぐる審理の東ティモール側弁護士事務所を家宅捜索し文書を押収したことに対して、その返還を求め た。そしてオーストラリアが東ティモールの主権を侵害したと非難した。
「闘いは続く」
2013年12月中抗議のうねりが首都ディリの街頭を、そして東ティモールのソーシャルネットワークシーンを覆った
Movimentu Kontra Okupasaun Tasi Timor(ティモール海占有に反対する運動)とNGOのラオ・ハムツク(東ティモールの権利擁護で有名)は、若者を中心に数十人を動員して同国の主権を護る抗議活動を行った。
「闘いは続く」(a luta kontinua)というスローガンは、1999年に国民投票で東ティモールの独立が決まるまで24年間のインドネシア占領期に広く使われた。同じスローガンが昨年12月初めに配布されたオーストラリア政府に対する次の呼びかけ文書のプレスリリース [PDF] の結語として再び使われたのだ。
1. ティモール海を盗んだり、占領したりするのはやめて、大国として善意を示すべきだ。民主主義の原理に従って、国際法の原則に基づいた海上境界線を受け入れるべきだ。(訳注:東ティモールは 国際法上主流となっている両国の中間線を国境とするように主張している)
2. オーストラリアは東ティモール国民の権利を認め尊重する主権国家として、範を示すべきだ。
3. オーストラリアは東ティモール国民に対する新植民地主義的扱いの継続や拡大をやめるべきだ。東ティモール国民は何世紀にもわたって植民地支配に苦しんできた。我々はもはやあなた方の奴隷にはならない。
4. オーストラリアのアボット政権は、過去から現在に至るまでオーストラリアによってひどく差別されてきたマウベレの人々(訳注:東ティモール人と同義)に謝罪すべきだ。さもなければ我々はオーストラリア大使館前で無期限の抗議活動を続けよう。
2013年12月20日、ディリのオーストラリア大使館前で再びデモが行われた。このデモには東ティモール国民議会の議員も数名参加[pt] して国民との連帯を訴えた。
12月初めの一連のデモは、ハーグで開かれる国際仲裁裁判の東ティモール側弁護士事務所を、オーストラリア保安情報機構(ASIO)が家宅捜査したとの豪州メディア報道を受けて始まった。
この家宅捜査の際、同弁護士が裁判の初公判で提出予定だった関係書類、電子記録が押収された。
また同日ASIOは、このハーグの国際裁判に出席予定であったオーストラリア秘密情報部(ASIS)の元職員で、スパイ活動の内部告発者とみられる人物のパスポートも押収した。この元職員は過去に東ティモールでの諜報活動に携わっており、CMATS条約締結交渉の過程でオーストラリアが東ティモール首相の事務所に盗聴器を仕掛けた件に関して、東ティモールのために進んで証言台に立つ予定であった。この身元が明らかにされていない元諜報員が東ティモール側の決定的な証人になるはずであった。オーストラリア政府による今回の行動は、この人物が裁判に出席するためオランダへ出国するのを食い止めることをねらったものだ。
海洋諸協定
2013年4月、東ティモール政府はオーストラリア政府に対して、国際司法裁判所に仲裁を求める手続きを開始すると 通知した。その理由は2006年に両国間で締結されたCMATS条約が誠実な交渉に基づいて締結されたものでなかったので、無効とされるべきだというものだった。
東ティモール政府によると問題の核心は次の通りだ。オーストラリア政府は商業利益からスパイ活動を行った。これは両当事国が誠意を持って交渉にあたるという最も重要な条件に疑問を投げかけるものだ。したがって締結されたCMATS条約は自らの条項に基づいて無効となる。また条約法に関して規定した現行のウィーン条約に照らしても無効だ。
2007年に発効したCMATS条約は、ティモール海の資源を両国間でどのように配分するかを定めたものである。この資源とは、具体的にはグレーター・サンライズ油田およびガス田を指し、その埋蔵量は金額に換算して400億米ドルに相当するとみられる。条約では、東ティモールは50年間、領海問題を持ち出さないこととされている。これはオーストラリアに有利に働く条項だ。というのは、もし現行の国際法にしたがって境界線が引かれるとグレーター・サンライズ油田はすっぽり東ティモールの領海内に入るからである。
これらの問題は、オーストラリアABC局が東ティモール政府と石油・ガス大企業との間の紛争を取材して制作したドキュメンタリー「ティモールの困難な状況」に描かれている。
昨年12月の一連のニュースを受けて、シャナナ・グスマン東ティモール首相は地元のメディアを通じてオーストラリアの振る舞い対する憤りを表明した。12月11日付のTempo Semanal紙の記事 [tet, en] によると首相は、オーストラリア政府が東ティモールの正義に干渉し、近隣諸国との関係において倫理観に欠けていると非難した。また、オーストラリアによる東ティモールへのスパイ活動は国家安全保障の問題であると強調した。
一方オーストラリア側では、ASIOの作戦を許可したジョージ・ブランディス司法長官は、この強制捜査は国益に基づくものだとその合法性を 弁護した。同司法長官によるとこの秘密情報部の元職員の氏名を公表すると、オーストラリアの国家安全保障が脅かされる恐れがあったと理由を説明した。
また2004年に東ティモールとのCMATS条約の交渉にあたったオーストラリア側の当事者だったアレクサンダー・ダウナー元外相は、すでに締結されている条約を問題にしている現東ティモール政権はご都合主義だと非難した。同氏は議員を辞めた直後にウッドサイド石油の顧問に就いた。この会社はティモール海のグレーター・サンライズ油田開発企業連合体に参加している。先のASIS元職員が東ティモール側に立って裁判で証言することを望んだ理由の一つがこの件に関してである。
東ティモールの側ではこの外交上の事件を、同国史上でも際立った他の事件に比肩されるほどの不正義な事件だと見ている。その一例としては、オーストラリアがインドネシアによる東ティモールの事実上の併合を承認し、インドネシア占領期(1975-1999年)に起こった残虐行為や人権侵害に目をつぶってまでも、1989年に東ティモールの地下資源を不正に調査したことが挙げられる。
東ティモールのデモの参加者と政治家たちは、この事件は富裕国の権利と貧困国の権利は同じではないことを示す例だと強調した。そしてこの不平等な関係を恒常化させるためにオーストラリアの政治経済力が使われているのだと主張した。
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