カンボジア グローバル・ボイスの提携メディア「VOD (ボイス・オブ・デモクラシー) 」が閉鎖に

VODの読者や報道の自由を訴える擁護団体は、ハッシュタグ「#SaveVOD (VODを守ろう) 」を使いVODへの支持を表明した。画像はカンボジア海外記者クラブのウェブサイトより。

(原文掲載日 2023年2月17日)

カンボジアで40年近くにわたって権力を掌握してきたフン・セン首相は、現地メディア、ボイス・オブ・デモクラシー (Voice of Democracy 以下VOD) の事業免許を取り消すよう情報省に指示した。ある記事の掲載が報道倫理に反しており、その内容が国家の威信を傷つけるものであるというのがその理由だった。カンボジアに残された数少ない独立系メディアであるVODの強制閉鎖に対し、各メディアからは批判の声が上がっている。VODは2019年以来、グローバル・ボイスと記事共有の提携を結んでいた。

問題となったのはVODが今年2月9日に、ファイ・シファン政府報道官の談話として報じた記事である。この記事においてVODは、トルコ・シリア大地震に対し10万ドルの救援金を提供するとした支出案に、カンボジア王国軍副司令官でフン・セン首相長男のフン・マネット氏が首相に代わって署名したと伝えた。今年7月に総選挙を控えたカンボジアで、フン・マネット氏は父親の後継者として与党党首の座につくと目されている。

この報道に対し、フン・マネット氏は記事中に出てくる書類に自分は署名していないと主張し、これを受けてVODは補足記事を掲載した。しかしフン・セン首相は72時間以内に謝罪するよう要求し、要求に従わなければ事業取り消しの命令を出すとした。その後期限は24時間以内に短縮され、VODは期限内に謝罪文を提出したが、首相はその内容が誠意に欠けることを理由に一蹴した。

カンボジア海外記者クラブは「カンボジアにとって、そして報道の自由にとって、暗く不安な時代を迎えている」というSNSへの投稿と併せ、複数のメディア媒体や市民団体と共同でVODの閉鎖を憂慮する宣言を発表した。この共同宣言には90以上の団体が名を連ねており、当局に対し報道の自由を擁護し法律を順守するよう求める内容となっている。

Prime Minister Hun Sen’s arbitrary deadline signals a serious threat to all independent media and journalists in Cambodia.

We call on the government to resolve the issue in a calm, professional and respectful manner that is in line with Cambodian law and that does not do lasting damage to Cambodia’s media landscape. We believe that the closure of VOD would represent a grave step backwards for both press freedoms and the rule of law in Cambodia.

今回、フン・セン首相が期限を任意で決めて謝罪を要求してきたことは、カンボジアのすべての独立系メディアやジャーナリストにとって深刻な脅威となっています。

私たちは、この出来事によってカンボジアのメディア状況が取り返しのつかないような痛手を受けることを憂慮しています。国はこの問題を解決するにあたり、法律に則り専門的知識に基づいた理性的で丁寧な仕方で対処すべきです。VODが閉鎖されるならば、カンボジアは報道の自由と法の支配の、深刻な後退を経験することになるでしょう。

共同宣言は、報道によって被害を受けた者は名誉毀損で告訴できること、一方、申し立てを受けた発行者は、記事の訂正や撤回までに7日間の猶予が与えられていることを、法律を挙げて念押ししている。

VODの突然の閉鎖は、日刊紙カンボジア・デイリーの廃刊に連なるものだ。カンボジア・デイリーは、脱税を理由に国から複数の請求を受けて2017年に発行を停止した。別の独立系メディアであるプノンペン・ポストも、2018年に現在のオーナーに売却されるまで政権からの圧力を受けていた。ジャーナリストのメック・ダーラーは、こうしたニュースメディアで長く活動してきたが、彼は政府が一貫して独立系メディアを弾圧してきたことについてSNSで次のように発信している。

こうなる運命だったのだろうか。カンボジア・デイリー、プノンペン・ポスト、VODイングリッシュ、VODクメール、僕が仕事してきたメディアはどこも終わってしまった。あまりにも大きな痛手で、どうしたらいいのか分からない。一息つく間もなく、こんなに立て続けだなんて。😭😭😭😭😭😭😭😭😭

しかしカンボジアの外務国際協力省は、当局がVODの免許を取り消したのは適切な行為であり、この国の報道規範の徹底に寄与するとしている。

An administrative action against a rule-breaking entity does not merit any worry at all. What should be alarming is the mounting disinformation and intentional slanders, which undermine the essence and principles of human rights and freedoms.

The move against an unprofessional media outlet does not undermine the vibrant press freedom in the Kingdom, but contributes to the strengthening of profession of journalism.

法律を遵守しないメディア機関に対して行政処分を行うことに、懸念されるような問題は何もありません。虚偽情報の流布や意図的な中傷は、人権や表現の自由の本質と原則を損なうものですから、警戒を怠ることはできません。

職業倫理に欠けたメディアに対してしかるべき措置をとることは、我が国における活発で自由な報道を脅かすものではなく、むしろ報道規範の徹底に資するものです。

この報道発表に加え、キウー・カニャリット情報大臣は他のメディアもVODの事例から学ぶべきだとコメントした。

It is a lesson learned for other media institutions…The media institutions that do not agree to publish clarifications, [they] will face the revocation of their licenses.

これは他のメディアにとっての教訓となるでしょう。メディア媒体が正確な報道を拒むなら、免許は取り消されることになります。

ソーシャルメディア上では、VODの閉鎖を知った読者や報道の自由を訴える擁護団体がハッシュタグ#SaveVOD (VODを守ろう) を使って支援の意を表明した。

他社の記者や市民社会団体は、支援と連帯表明のためにVODのオフィス前に集まった。

報道関係者 (数名の警官もいた) は、VODとVODの運営母体であるCCIM (カンボジア独立メディアセンター) のオフィス前に集まった。CCIMのメディア・ディレクターを務めるイット・ソートゥは、フン・セン首相は免許剥奪を命じたが、自分たちはVODの存続に希望を持っていると手短にコメントした。

人権保護団体は、VODの存在は政治犯裁判の報道には不可欠だとしている。政府の息がかかった多くのメディアは、政府批判や公式談話への反対意見を掲載できないか、掲載に消極的だからだ。

VODとその仕事を愛する者にとって、当局による事業免許取り消しは本当に胸が痛む。この写真の記者は、取材のため裁判や反対運動の現場にいつも来ていた。彼女とその仲間たちに敬意を捧げる。

首相が決定を撤回しないことが分かった後、VODの編集室では記者たちが互いに慰めあっていた。

VODのオフィスでは、現実を突きつけられた記者たちが悲痛な表情を浮かべていた。

多くのメディアが詰めかけ、悲嘆に打ちのめされた女性が慰められている様子を報道した。

フン・セン首相は先ごろ、VODのスタッフには別の場所での仕事があると述べている。

首相官邸は、VODの記者たちのために政府関連の仕事を用意すると発表した。

VODが閉鎖となり再開は見込めない状況ですが、私は、運営上の問題のために職を失ったスタッフの生活を考慮し、彼らが希望すれば政府関連の仕事に就けるようにしました。

VOD電子版の編集者であるテン・スレイニットは、この提案に対して次のようにコメントしている。

Choosing a career is not as simple as changing clothes, let alone building a career path that has been shaping your values and world perspectives. What has been earned and built for individuals who strive for the public interests cannot be easily replaced by a given job #SaveVoD

職業を選ぶことは、服を着替えるように単純な話ではない。まして、その仕事を通して自分の価値観や世界観を作り上げてきたのだからなおさらだ。公共の利益のために努力を重ねる中で、獲得し築いてきたことは、あてがいぶちの仕事によって簡単に得られるものではない。

国連人権事務所と、アメリカフランスドイツオーストラリアイギリススウェーデンの各大使館は声明を発表し、カンボジア政府に対してVODの免許取り消しを撤回するよう求めた。

国境なき記者団が発表した2022年度の世界報道自由度ランキングで、カンボジアは180カ国・地域のうち142位と低い順位に留まっている。フン・セン政権下、カンボジアでは新型コロナウイルスによる非常事態を理由に批判的な意見が抑え込まれ、報道の自由は悪化の一途をたどっている。

2022年、複数のメディア団体は連名で、労働運動等を取り上げた記者たちが受けた暴力を非難する声明を発表した。それによれば、報道関係者に対する脅迫や攻撃は2022年1月から10月までに少なくとも57件起きている。一方カンボジア当局はサイバー犯罪の取り締まりを目的に法律を強化しており、批判的な記事へのアクセス制限や、政府関係者を侮辱した投稿者の逮捕が可能である。反対意見への取り締まりはますます強まっており、今年7月の下院選を前に、野党指導者たちが政略的な背景から起訴されるといった事件も起きている。VODの閉鎖によって、人々は与党の動きや今度の選挙を左右するような諸問題についての、独立した確かな情報源を失うことになるだろう。

VODの閉鎖後、CCIM (カンボジア独立メディアセンター) が新たに立ち上げたメディアについては以下の記事に紹介されています。
Kamnotra emerges as the latest platform in a ‘news-starved’ Cambodia

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