噴火による変容ーーセントビンセント島出身の写真家、ナディア・ハギンズが見たスフリエール山

手前に火砕流堆積物、奥に噴火の痕の残るスフリエール山の山頂(2021年5月13日)写真: ナディア・ハギンズ(Nadia Huggins)の許可を得て使用

(訳注:この記事の原文は2021年6月2日に投稿された)

セントビンセント・グレナディーン諸島(訳注:1979年にイギリスから独立して国家となった)のスフリエール山が21世紀最初の大噴火を起こしてから、2ヶ月近くが経とうとしている。4月9日からの長い数週間で、約2万人が自宅から避難した。降灰 が激しく、他の島でも野生動物の生存や人への健康が危ぶまれている。激しい降雨の影響噴火活動が悪化し、国の警戒レベルはほとんどの期間、レッドのまま だった。

写真家のナディア・ハギンズ は、スフリエール山の噴火による一連の出来事に立ち会ってきた。この間、スフリエール山の巨大な噴煙を記録するために比較的安全で見通しの良い場所をボートで探し、最初の噴火からその後継続的被害までの様子を撮影した。

彼女の Instagram には、この島国のあゆみが力強く記録されており、不確実性、勇気、喪失感、哀しみ、希望、そして回復力といった言葉では表現できない変遷を伝えている。この2回の連載でハギンズは、自身の作品の中で真実を伝えることは何を意味するのか、「スフリエール」の脅威にさらされながらの日常生活の様子、(現在も国内ではオレンジ色の警戒態勢が敷かれている)そして、写真家として島国の物語を伝えていくことにどのように貢献できるかを述べている。ハギンズは6月2日に、WhatsApp(ワッツアップ)の音声通話で私に話してくれた。

2021年4月9日、スフリエール山の2回目の噴火を記録するビンセント島出身の写真家ナディア・ハギンズ。写真:本人の許可を得て使用

ジャニーン・メンデス・フランコ (以下JMF): あなたが映し出すイメージは、人の感情に訴えかけてきて、とても力強さを感じます。一方で、一瞥しただけでは取り込めない親密さが込められているように感じられます。

Nadia Huggins (NH): I think it boils down to the way you approach the ethics of photography. Especially now, photographers have a responsibility to be considerate about what type of images they put out into the world. It's very easy to photograph a house buried under ash to try and get that gut reaction out of people, but for me, I try to go into the situation asking questions like, ‘If this were my house, how would I feel about somebody photographing and sharing it in this way?’ You really have to think of the intention behind the images. Of course you want people to know that there's all this horrible destruction that's happened, but what do you want [the message to be]? Do people need help? More relief? Long-term assistance? How is it socially impacting people? What is their mental health going to be like afterwards? I try to be very mindful with what I post.

ナディア・ハギンズ(以下NH):それは結局のところ、写真に関する倫理的な取り組み方を考えることなのだと思います。特に今の時代、写真家はどんなイメージを外に送り出すかということについて配慮する責任があります。灰に埋もれた家を撮影して、観る人の直感的な反応を得ようとするのはすごく簡単なことです。けれども、私の場合「もしこれが自分の家で、誰かがこんな風に撮影をしてシェアすることをどう感じるだろうか」と考えながら撮影をするようにしています。一連のイメージに込める自分の意図をしっかりと考える必要があります。もちろん、私の写真を観る人には壊滅的な破壊が生じたことを分かってもらいたいとは思います。けれども、観る人に伝えたいメッセージとはどういったものなのでしょうか。住民は助けを必要としているということなのでしょうか。さらなる救済や長期的な支援が必要だと伝えたいのでしょうか。住民が受ける社会的影響や、壊滅的な破壊が生じた後の住民の精神面での状態はどうなるのかといったことなど、私は投稿する写真の内容には細心の注意を払うようにしています。

JMF: 写真を拝見すると、たとえばシャトーブレール島の風下の海岸近くに浮かんでいる軽石 を撮影するなど、普通は見逃してしまうようなディテールに焦点を当てていることが多いですね。あなたにとって、報道写真を構成する要素について教えてください。

シャトーブレール島付近の水面に浮かぶ軽石。

NH: (Laughs) Sometimes I just wing it! I organically respond to what seems interesting. We all have a very particular range of perception of the world and as a photographer, your responsibility is to kind of zoom in or change your perspective ever so slightly when looking at things. Sometimes the most powerful thing that's going on is about eliminating a lot of the other elements around it—and that decision you make is really based on your own perception and what you might think is important, so it's a very personal approach to photography. I didn't even realise ash floated on the water like that, so if I didn't know that then how many other people out there don't know that?

NH:(笑) たまにはアドリブでやることもありますよ。興味を惹くものに出会うと自然にレンズを向けています。誰もがそれぞれの世界観というものを持っていますし、写真家として私ができることは、被写体のディテールに焦点を当てたり視点を少しだけ変えたりして、写真で伝えることなのです。時には印象的な出来事をフレームに収めようとすることで、フレームの外にある真実を伝えきれないことがあります。フレームに収めるというのは、撮影者本人の認識だったり大切に思っていることだったりがベースになっています。ですから、写真というのは、純粋に、個人的な取り組み方が反映されるものなのです。灰があんな風に水に浮かんでいることさえ私は知らなかったのですから。私が知らないなら、どれだけの人が知らないというのでしょうか。

JMF: あなたの写真は、報道写真とアートが出会う空間にあると言えるのではないでしょうか。

NH: My practice has always been moving between documentary and conceptual. I'm always trying to question how that fine arts side comes into play, and it's mostly through composition for me, and that's where the perception and perspective also comes into play—what I'm looking at and how I'm looking at it. You still want an element of truth in there; you don't want to completely manipulate what you see to the point where it's unbelievable. People also just want to be pulled in by something that looks different but still feels familiar, and that's always been the roots of my practice: trying to find that universal familiarity in scenes.

NH: 私の写真は、常に記録化と概念化の間を行き来しています。私は、どのようにしたらファインアート(純粋美術)としての側面がイメージの中で連動するかを考えています。私は主にそれを構図から実現しようとしています。映し出したイメージの中に、私の認識や視点が融合します。つまり、私が何をどんな風に見ているのかということが写真に反映されています。写真家は、イメージの中に真実を映し出そうとしますし、目の前にあるものを完全な虚構として映し出したくないのです。人というのは、変わっていてもどこか親しみを感じられるものに惹かれていくものでもあるのです。私の作品のベースにあるのは、情景のなかに、普遍的な親密さを追求することなのです。

JMF: 一方で、あなたの作品には噴火のドラマをとらえたものも多く、雲と噴煙の コントラストを表現したもの は印象的です。噴火を記録するという経験についてのご自身の想いを教えてください。

雲と噴煙とのコントラスト。

 

NH: I honestly have no idea what I was thinking, getting onto a boat going into the red zone! As soon as the first eruption went off, friends called me: ‘Are we gonna do this?’ We all just made a decision collectively, without even realising it, that we were going to document it and we just went for it and were lucky to know other people who were just as crazy as us: one person to drive the boat, one to be on the phone [with The University of the West Indies Seismic Research Centre] to make sure that we were in safe range—so it wasn't totally irresponsible.

When we got there, the whole place was just white with ash. You couldn't see anything, just bits of islands and then, as the cloud started to come up, everyone [thought] it was the old ash cloud [but] there was a new eruption happening and as it started to rise quicker, I just got terrified. We had no idea how [high] it was going to rise, if there'd be pyroclastic flow, so we needed to go. As the boat was driving off, it started to rise and I was just in awe. It didn't quite register that what goes up has to come down. Everybody on the island was just taking pictures, taking selfies, and by the evening, when the ash started to come down, falling like snow, you could hear stones. That's when the reality started to sink in and I instantly felt depressed.

NH: レッドゾーンに向かう船に乗るなんて、正直、何を考えていたのかわかりません。最初の噴火が起こってすぐに、友人たちから私に「撮らないの?」と電話がありました。レッドゾーンのことなど気にとめることなく友人たちと決めました。噴火を記録するためにレッドゾーンに向かうと幸運なことに、私たちのようなクレイジーな仲間がいました。ボートを運転する人、安全域にいることを知らせるために(西インド諸島大学地震研究センターに)電話をする人など、まったくの向こう見ずというわけではありませんでした。
現地に着くと、辺り一面が灰で真っ白になっていて、島の断片が見えるだけであとは何も見えませんでした。その後、雲が上昇し始めると、誰もが最初の噴火のときの灰の雲だと思っていたのです。けれども、実際は新たな噴火が起きていて、雲がさらに早く上昇し始めたので、心底恐怖を感じました。どのくらいの高さまで上昇していくのか、火砕流が発生するのかどうかもわからなかったので、戻らなければなりませんでした。ボートが走り去ると噴火が始まり、私はひたすら畏敬の念を感じたのです。「上がれば下がる」ということを知らなかったのです。島の人が写真を撮ったり自撮りをしたり、夕方になって灰が雪のように降ってくると、噴石の落下による振動がしました。その時、現実を目の当たりにして、一瞬にして気持ちが沈みました。

 

NH:Hi everyone, thank you all so much for your concern and well wishes. I would love to be able to personally respond to everyone, but it’s a bit difficult at the moment. I just want to let you all know that I am safe for now with my family and friends, thankfully we are situated in the green zone so out of major harm’s way. However, this morning waking up to a country blanketed in ash has been traumatic to say the least. We are taking all the necessary precautions to ensure the safety of everyone and are very grateful for the continued work that the @uwiseismic and @nemosvg20 have been doing to keep us informed and safe. Our water supply has been cut off for preservation of our resources until the ash settles. The air quality is pretty horrible, but we are staying indoors as much as possible to avoid contact with the ash. I’m not sure what to expect in the coming days or weeks, but I will be posting some information on how you can assist our small nation – link to relief efforts on my highlighted stories. Thank you all again. #lasoufriere #volcano #caribbeanvolcano #stvincentandthegrenadines #stvincent #svg #stvincentvolcano

NH: 皆さん、こんにちは。心配してくれたり気にかけてくれたり本当にありがとうございます。本当は皆さんに直接お返事をしたいのですが、今は少し難しい状況です。今のところ、私は家族や友人と一緒に安全に過ごしています。幸いなことに、私たちはグリーンゾーンにいるので、大きな危険はありません。そのことは全ての皆さんに知っておいてもらいたいです。けれども、今朝目を覚ますと国中が灰に覆われていて、控えめに言ってもトラウマになりそうです。私たちは、全員の安全を確実にするために必要なあらゆる予防措置をとっていて、@uwiseismic(西インド諸島大学地震研究センター)と@nemosvg20(セントビンセント・グレナディーン諸島国家緊急事態管理局)が私たちに情報と安全を知らせ続けてくれていることに大変感謝しています。灰が落ち着くまでの間、資源を守るために水の供給を停止しています。空気の状態はかなりひどいですけど、灰との接触を避けるためにできるだけ屋内にいます。今後数日から数週間の間に何が起こるかはわかりませんが、 私は皆さんにこの小さな国を支援してもらえるように近況を発信するつもりです。皆さん、本当にありがとうございました。

JMF: あなたの作品には、静物写真を思わせるものがありますね。美しさと真実を伝えることは共存できるのでしょうか。

灰を被ったパンノキの実と葉。(2021年4月10日)

NH: There wasn't any wind that day, after [the eruption]. The place was entirely still; nothing was moving. You wouldn't even see ash blowing on that first day. The place was just dark; like a black and white photo. You step outside and everything was covered in that grey. When you walked, the ash would move away and the colour would come back into the ground. I was just looking for these iconic symbols of St. Vincent, you know? The breadfruit leaf has been a part of our old flag and we have so many trees here … part of our national dish and I think Captain Bligh brought the first breadfruit tree to the Western world through St. Vincent, so there was some kind of significance in it for me. This is in my mother's garden […] I was walking around and just observing, saw it, and something about it was really striking. It felt kind of poetic. I didn't place the leaves in the image in any particular way; they fell that way, so it's looking for those moments that seem compositionally interesting. With still life, you place things in a particular way, but this is nature just placing things in the way that it intended. I try not to interfere with things.

NH: 噴火の後、その日は風はなく噴火場所はしんと静まりかえって、動きはありませんでした。初日は灰が吹いているのも見えませんでした。モノクロ写真のように色は感じられず、外に出るとすべてが灰色に覆われていました。歩いていると、灰が吹き飛んで地面の色が表れてきます。私は、セント・ビンセントの象徴的なシンボルを探していました。パンノキの葉は古い国旗にあしらわれていますし、セント・ビンセントにはたくさんの木があります……国の料理で用いられたり、ブリック船長がセント・ビンセントを通じて初めてパンノキを西欧諸国に持ち込んだりしたのだと思います。ですから、パンノキは私にとって何かしらの意味があったのです。この葉は母の庭のものです。(中略)歩きながら葉に目をこらして眺めていたら、何かすごく心に響いてきて、何というか詩的な感じがしたのです。葉は特に撮影用に置いたわけではなく、舞ってきたものなので、構図的に面白そうな瞬間を探すことになります。静物写真では、特定の方法でものを配置しますが、こちらの写真では自然に逆らわないようにしています。手を加えることはしません。

母の家の隣の畑で羊の餌として集められたバナナの葉は、今は灰に覆われている。(2021年4月10日)

JMF: これまでに 国際的に発表されてきたあなたの多くの作品は、海がテーマになっています。海というのは、テーマであると同時に地域の文化や運命を形作る源でもあります。作品の「スフリエール」の海景は何を伝えているのでしょうか? 私が目をひいたのは、遠くに見えるクルーズ船とベイト・ボール(球状の魚群)を記録したものです。

避難してきたクルーズ船を背景に、迫り来るベイト・ボールを記録するカイ。オレンジゾーンの外側にはたくさんのベイト・ボールがあった。噴火が続いている区域の近くでは、何の動きもないように見えた。(2021年4月9日)

NH: That was a strange moment. As we were going into the red zone to document that explosion […] my friend Kai just wanted to face some of his fears. He'd never jumped into the ocean so far away from land. There were these massive bait balls around the orange zone because all the fish were now out of the red zone—nothing could survive in there—but the thing with bait balls is that there's something […] below trying to capture the fish. It could be sharks or whales—it's kind of terrifying to think about it—and Kai just jumped into the water with the GoPro trying to see if he could get anything. The cruise ship in the background was for the evacuees but [at the time] it didn't have anybody on it, so it was strange [seeing it] floating out on the horizon just waiting for something to happen. It really just felt like a powerful moment that I wanted to capture.

NH: あれは不思議な感覚でした。噴火を記録しようとレッドゾーンに入ったとき、(中略)友人のカイはあえて自分の恐怖心と向き合おうとしました。彼は陸地からこんなに遠く離れた海に飛び込んだことはこれまでありませんでした。オレンジゾーンの周りでは巨大なベイト・ボールが作られていました。レッドゾーンからすべての魚がいなくなって、レッドゾーン内では生き延びることはできなかったからです。ベイト・ボールが見られるということは、魚を捕らえようとする何かが下にいるということを表します。サメかクジラでしょうか(中略)考えただけでも何とも言えない恐ろしさがあります。カイはその様子を写そうとしてGoProカメラを持って水の中に飛び込みました。背景に写っているクルーズ船は避難者を乗せるためのものですが、(当時は)誰も乗っていませんでした。そんな船を見ていると、水平線上にただ浮かんで何かが起こるのを待っているように感じられて、不思議な感覚におちいりました。そのときこそが、まさにシャッターを切りたくなった強烈な瞬間でした。

クエステルス湾を前景にした2回目の爆発的噴火の様子。リーワード・コースト沿いのグリーンゾーンに向かって引き返し中に発生(2021年4月9日)

NH: When I started taking the underwater images, I was trying to think about looking back at an island in a geological way. How does an island look below the sea? Geologically, what are those structures? Obviously my camera can't capture that scale, but I was interested in that aspect of it. We know that most of these islands are volcanic—that's how the Caribbean was formed—so at one point, we were all under water and over millions of years, these formations happened and now we're living on these islands. This gradual process of the landscape being transformed through these eruptions is interesting to me, so looking at it from the sea is me still trying to get a sense of that transformation.

NH:水中写真を撮り始めた頃は、島を地質学的に振り返ることを考えていました。島は海の中からどのように見えていて、地質学的にはどのような構造になっているのかということに考えを巡らせていました。もちろん、私のカメラではそのスケールをとらえることはできませんが、そうした側面を知りたいと思いました。周辺の島々のほとんどが活火山で、カリブ海はこうした経緯を経て形成されたことがわかっています。つまり、ある時点で人類の祖先は水中にいて、何百万年にもわたって地質学的な形成が起こり、今、私たちはカリブ海の島に暮らしています。噴火によって景観が徐々に変わっていく過程が私には興味深く映るのです。ですから、海から見ることでその変容を探ろうとしているのです。

 

海へと向かう灰の雲。(2021年4月18日)

この記事の後編 で、ナディアは変容、回復力、希望の概念と、カリブ海諸国にとっての問題点を語ってくれる。

(訳注:写真家ナディア・ハギンズについては、ブリティッシュ・カウンシル からもご視聴いただけます。)

校正:Masato Kaneko

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