ネチズンレポート: パリ襲撃事件後の世界、「テロリストによる脅威」か「政治的発言」か、ソーシャルメディアも規制対象に

Demonstrators in San Francisco, USA show solidarity with protesters in Egypt, February 2011. Photo by Steve Rhodes (CC BY-NC-ND 2.0)

2011年2月アメリカ、サンフランシスコにおけるデモ参加者ら、エジプトの抗議活動と連帯示す。撮影:スティーブ・ローデス (CC BY-NC-ND 2.0)

グローバルボイス・アドボカシーのネチズンレポートは、インターネット上での権利に関する世界各国の課題や成功事例、最新の動向を紹介しています。

ISISの呪わしい影は、多くのアラブ地域にとって特に目新しいものではない。暴力的な過激主義に関する話し合いも、世界レベルで進行している。だが、2015年11月に起きたパリ及びベイルート襲撃で、協議の緊急性は格段に高まった。諸国政府はその影響を受け、例のごとく各ソーシャルメディアに矛先を向けている。狙いは、過激派組織だけでなく非暴力的な政治活動家も含めたオンライン活動を全て撲滅することである。

石油王国でもあるサウジアラビア政府当局によると、ソーシャルメディア上で当国の刑法をISISの制裁と同一視する発言をした者は、罪に問われる可能性があるという。この警告は、先月、詩人で芸術家のアシュラフ・ファヤドに死刑判決が下された直後に公表された。裁判の判決は広く批判され、ソーシャルメディアでは、サウジアラビア刑法が定める刑罰とISISによる制裁を比較する者が続出した。人々は、ハッシュタグ #sosuemesaudiを使い、二つの体制が様々な側面で類似することを指摘した。どちらの組織においても、姦通や国王への反逆罪、神への冒とく、同性愛的行為で逮捕された者へ、死刑が適用されるという点は共通している。

一方で、ロシア人ソーシャルメディアユーザーのオレグ・ノヴォジェーニンには、一年間の流刑が言い渡された。現地の地方裁判所は、彼が「過激主義的な内容の情報」をソーシャルネットワークを通じ配信しているとして、有罪の判決を下した。地元メディアの報道では、ノヴォジェーニンが、ウクライナの国家主義政党である「ライトセクター」の活動を推進するようなファイルをアップロードしたのだという。そうした投稿が、ロシアでは現在禁止されているにもかかわらずだ。

バングラデシュ政府当局が、11月18日に開始したfacebook、Viber、WhatsApp等のメッセージ機能を持つ多くのソーシャルアプリの使用禁止令を依然解いていない。最高裁判所は、パキスタンからの独立を目的とした1971年のバングラデシュ独立戦争の際に、虐殺とレイプの罪で有罪判決を受けた2人の戦犯に対し、死刑判決を下した。ソーシャルアプリの使用禁止令は、判決が及ぼすと思われる「治安悪化への懸念」に基づいて発行された。被告の政党支持者の中には、暴力的な過激派に属する者もおり、判決に対する彼らの抗議は、社会不安を煽り立てた。国民は、VPNプロキシによるネットワーク、あるいは、トーアブラウザ等のツールを使って、各種SNSを利用しようとしたが、電気通信部門担当国務大臣のタラナ・ハリムは、こうした行為を「違法」として、公然と非難したネットワークユーザーの報告によれば、各通信会社から、そうした「違法」ツール使用への監視が強化されているとの注意があったという。

世界中の技術専門家や暗号技師らもまた、例外ではない。彼らは、暴力的な過激派オンライン活動をやめさせるか、少なくとも監視できるよう、自分たちの作り上げたシステムを変更するよう求められている。「Crptocat」という暗号化チャットプログラムの開発を率いた、レバノン人開発者ナディーム・コベイシーは、最近のブログの投稿の中で、国家とメディアの両方から飛んでくる質問について考えを述べた。

A simple mention of my encryption software in an Arabic-speaking forum is enough to put me on the receiving end of press inquiries such as “are you aware of any terrorists using your software? Do you feel it’s your responsibility to monitor terrorist activity? ”

In this rush to blame a field that is largely unknowable to the public and therefore at once alluring and terrifying, little attention has been paid to facts: The Paris terrorists did not use encryption, but coordinated over SMS, one of the easiest to monitor methods of digital communication. They were still not caught, indicating a failure in human intelligence and not in a capacity for digital surveillance.

私の暗号化ソフトウェアについて、アラビア語表記の掲示板でちょっとでも話題にしてご覧なさい。それだけで、メディアからうんと問い合わせをくらうことになるでしょうよ。「ご自分のソフトウェアを使っているテロリストをご存知ですか?テロリストの活動を監視する責任は、お感じになりますか? 」とかね。

私たちが扱う分野の大部分は、多くの人々にとって興味深いと同時に恐ろしいような、未知の世界です。そのため、この方面に非難が集中する中、事実にはほとんど注意が払われていません。パリ襲撃の際にテロリストたちが使ったのは、暗号化ソフトではありません。彼らは、デジタル通信の中でも比較的監視がしやすいSNSを使って、協力体制を築いたのです。それにもかかわらず、彼らは捕まらなかった。事件は、デジタル世界の検閲に不備があったために起きたのではありません。単純に、検閲を行う側である人間の知能の問題だったのです。

中国、少数民族の携帯電話サービスを停止

インターネット接続の際に、ネット規制を避けるための技術を利用する人の携帯電話アカウントが、中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区で、凍結の危機にさらされている。 中には「公安当局からの通知により、法の規定に基づき、2時間以内にお客様の携帯電話サービスのご利用を停止させていただきます」というテキストメッセージを、既に受け取った利用者もいる。ニューヨークタイムズによると、通達の対象は、VPNを通じてネットワークにアクセスしている人や、WhatsAppやTelegram等といった海外発メッセージソフトウェアの利用者だけではなく、個人情報を携帯番号と連携していない人まで含まれるという。中国の西方に位置する新疆ウイグル自治区は、これまでもひんぱんに中国政府による検閲と監視の実験場となってきた。政府は、少数民族のウイグル族と大多数を占める漢民族との間で暴力衝突が起きた際、自治区全体のインターネットサービスを停止したことさえある。

インドネシア、ヘイトスピーチの定義を巡り対立

インドネシア警察は、ヘイトスピーチの取り締まりに関し、新たな勧告を発表した。導入によって、ヘイトスピーチが刑法による処罰の対象となったが、中には基準自体が表現の自由を侵害する可能性があるとして懸念する者もいる。「我々は、新テクノロジーやデジタルツールが誤用され、悪用されるのを放っておくことはできない」国家警察広報課のアントン・チャーリヤン監察長官の発言に対し、法律扶助団体のLBH Persは以下のように返した。「この件を法律の枠組みの中で捉えることで、正当とは呼べない逮捕が起きる可能性がある。警察自身による職権乱用を防ぐためにも、中傷とヘイトスピーチは、別物として区別すべきである」

ロシア、携帯電話SIMカードの取り締まりを強化

ロシアで携帯電話のSIMカードを購入するのは、現時点でもそれほど簡単ではない。だが、そう遠くないうちに、購入が 更に難しくなる可能性がある。ロシアでは、匿名でSIMカードを購入することは現在禁じられている。だが、「増大するテロリストの脅威」という名目の元、当局が、ロシアに滞在する外国人の携帯電話契約期間を制限する可能性がある。政府によると、外国人の携帯電話サービス延長の可否は、当人に在留期間延長が認められていることを示す書類と照らし合わせて判断されるという。また、プリペイド式の携帯電話は、携帯電話会社との署名契約を必要とせず、それゆえか司法当局は、その販売に一層厳格な規制を求めている。

グーグル、フェアユースへの支援を公表

グーグルは、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の著作権保護請求によって削除を余儀なくされた複数のYouTube動画に対し、法的支援の提供を検討していると公表した。この試みを、同社は「YouTube上の動画の中でも、フェアユースの原則を最もよく体現する作品のいくつかを保護する」ためだとしている。YouTube利用者と著作権所有者の両者が、オンラインにおけるフェアユースがいかなるものなのかを、よりよく理解できるようなデモリール(作品集)を作り上げること。これが、彼らの望みである。YouTubeが著作権保護のため現在利用しているのは、 コンテンツID と呼ばれるデジタル式の指紋認証システムである。システムではまず、サイト上のスキャニングを通して、著作権を侵害する内容を含む動画が特定され、その後、コンテンツID保持者によって提出されたファイル自体が、自動的に削除される。とはいえ、グーグルの公表によりこのシステムにどのような影響が出るのかは、いまだはっきりしない。

関連の新規調査

エラリー・ロバーツ・ビドル、サム・ケロッグ、リ・ウェイピン、リム・ヘイン、そして サラ・マイヤース・ウェスト がこの記事に携わりました

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校正:Maki Ikawa

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