中国検閲の歴史:天安門での虐殺から30年

(訳注:原文掲載は2019年4月19日です。記事内容は当時の状況を反映している)

5年前にWeibo界隈で拡散された画像 Reddit経由

中国89年民主化運動(八九民运)から30年たった。一気に盛り上がり、そして消滅した民主化運動は、1989年6月4日の悪名高い天安門広場での虐殺という悲劇で幕を下ろした。

その日、中国軍隊は民主主義的な改革を要求した学生主導のデモに対し、残酷な弾圧を執行した。中国紅十字会は2,700人の民間人が殺されたと見積もった。しかし、もっと高い死者数を示す情報もある。2014年に明るみとなったアメリカ政府の機密文書によると、中国の内部調査では、殺害された民間人の数は少なくとも10,454人にも上ると 報告 されている。

中国共産党政府は決して天安門事件を公式に認めず、独自捜査にて説明責任を果たす事もしなかった。どの歴史の教科書にも89年民主化運動の言及はなく、中国のほとんどの大学生は虐殺について 聞いたことすらない

このスクリーンショットには中国のソーシャルメディア上で検閲された6月4日関連の画像とキーワードの一覧が載っている。有名なこの写真の赤丸で囲まれた部分に、路上から見た「戦車男」が写っている。情報源: Censored Histories: June 4

中国でインターネットが普及して間もないころから、民主化運動と虐殺といったトピックはネット上で論じることはタブーとされてきた。また毎年、天安門事件の記念日が近づいてくると、 ソーシャルメディアのプラットフォーム 、および 政府を批判する団体や個人は、民主化運動関連の話題を禁じる政府からの圧力がだんだん強まって行く状況に直面することになる。

天安門広場の虐殺から30周年を迎えるにあたって、私達のチーム、香港大学の Weiboscope と、トロント大学のCitizen Labは、中国のソーシャルメディアに対して行われた89年民主化運動関連で検閲されたコンテンツの一覧 を作成した。この研究によって明らかとなった、中華人民共和国建国以来最大の民主化運動にまつわる禁断の話をいくつか語ろう。

中国でのソーシャルメデイアの情報統制について

中国のソーシャルメディア上の発言や情報の統制は、企業の「自主規制」 のシステムに委ねられている。つまり企業は、禁じられたコンテンツを自社プラットフォームから自らの責任で排除しているのだ。

WeChat(中国で最も人気のあるチャットアプリ)やWeibo(中国版Twitter)といったソーシャルメディアのプラットフォームは、中国政府の規制を基にコンテンツ検閲を行うための技術と人材確保に投資することが求められている。規制とは、ネット上の「うわさ」、「国家の名誉」を傷つける情報、「経済や社会の秩序を乱す」、または「社会主義体制の打倒」を目的とした情報などの曖昧に定義されたトピックを公開することを禁止するもので、それを遵守しない場合は、罰金や営業ライセンスの取り消しにつながる可能性がある。

WeiboscopeとCitizen Labは、マイクロブログチャット アプリライブストリーミング、そしてさまざまな企業が開発したオンラインゲーム 上で、この自主規制システムがいかに機能するか調査した。これらのプラットフォーム全体を見渡すと、6月4日は最も常に検閲されているトピックだ。

6月4日:中国で最も検閲されている出来事

中国のネットユーザーは、投稿した途端に検閲されることをわかってはいるが、毎年6月に、いつも決まってソーシャルネット上で1989年天安門事件を追悼する。

ネットユーザーたちは、ありとあらゆる創造的かつ巧妙なやり方で追悼式を行う。6月4日に言及した暗号、ミーム、漫画、スピンオフ作品、文学や写真などを駆使するのだ。多くのユーザーが弾圧事件を追悼するために、灯されたキャンドルの絵文字を投稿する。彼らにとって、天安門の弾圧はただの歴史的、偶発的な悲劇ではない。それは国民の歴史を伝えるための生涯にわたる闘いを象徴するものだ。

Weiboscope研究チームは、2012年から2018年、Weiboの検閲された投稿から6月4日関連の投稿データセットを作成し、1,256件の投稿が検閲されたことを確認した。それらの多くは投稿されてから30分以内に削除されていた。

ここ10年間、Citizen Labは中国でのソーシャルメディアの検閲について調査を行い、また、さまざまなアプリケーション上で検閲の誘因となる キーワードを集めリスト にした。6月4日は、調査したすべてのアプリケーション上で常に検閲されるトピックとなっている。現在までに、6月4日に関連していると予測されるキーワード、3,237語 のリストを作成した。

WeiboscopeとCitizen Labは、共に6月4日関連のキーワードと画像を検証し、検閲された逸話やテーマを特定した。方法は後述する。

1989年北京にてAP通信のジェフ・ワイドナーによって撮影された報道写真 公正使用

Weiboscopeのデータによると、もともとはジェフ・ワイドナーが撮影したAP通信の有名な写真「戦車男」は、ネット上で追悼される際に最もよく参照される写真である。調査をする中で、「戦車男」を巧妙に、あるいは面白おかしく加工した数多くの画像を見つけた。

ひとりの男が、連なるタバコの箱、黄色いアヒルのおもちゃ、本、ロゴ、パソコンのマウスに立ち向かう、あるいは北京の閑散とした道路に立っているだけといった、リミックス画像を見つけることができる。

検閲されたWeiboの投稿では、「戦車男」の戦車が黄色いゴムのアヒルに入れ替わっている。情報源 : Weiboscope

6月始めのネットの自由に対する取り締まりは、中国共産党の動揺となって表れた。Weiboscopeのデータセットからは、「今日(今天)」、「昨日 (昨天)」、「明日(明天)」といった一見問題のないキーワードを含んだ投稿が検閲されたことが明らかになった。

2013年6月4日の「今日(今天)」の検索結果は、関連する法律や政策に従って表示できなかった。投稿欄翻訳:“Save the history” 情報源: Weiboscope

Citizen Labのデータセットの検閲キーワードは、89民主化運動の歴史的事件に言及する様々なトピックを表している。それらは、例えば、政府当局との対話を求めて抗議中に学生が行った「ハンガーストライキ(绝食请愿)」、民主化運動当時の中国最高指導者で政治家の「89鄧小平(八九邓小平)」、そして89民主化運動の有名な学生リーダーの「民主化リーダー王丹(民运领袖王丹)」などといったものである。

また、キーワードには、6月4日に言及するために、例えば「89VIIV」という数字は「VIIV」はローマ数字の「64」なので「8964」、「陆4」は「土地4」という意味だが「陆 Lù」は「六 Liù」と音が似ている(同音異義語)ことから「64」、「儿童节过后三天」は「子どもの日から3日後」という意味だが中国の子どもの日は6月1日なので「6月4日」となる、というように巧妙なやり方が使われている。

中国本土の電話番号に登録されたWeChatアカウントを持つユーザーが、海外のアカウントを持つユーザーとグループチャット内でキーワード「六四纪念馆」を送信しようと試みたが、ブロックされた。キーワードは削除されてメッセージは届いた。情報源: Citizen Lab

検閲に対する象徴的な抗議行為として、大勢のWeiboユーザーが3つのキーワードを投稿、あるいは検索すらできないことを示すためにシステム警告を表示するスクリーンショットを投稿した。この種の投稿は現政権に対する世論のバロメーターとしての役割を果たしている。

夜通しキャンドルを灯して祈る、香港のビクトリアパークで開かれた追悼式(维园烛光)のような記念イベントも、いろいろなプラットフォームで、キーワード検閲の対象となっている。

どうやってこれらの検閲対象のキーワードを収集したのか?

Citizen LabとWeiboscopeは、さまざまな手段を使って、中国のソーシャルメディアのプラットフォームがコンテンツをどのように検閲しているかを研究している。一般的にコンピューター動作による自動フィルタリングと人間の手作業による削除、両方の方法を使用している。

プラットフォームによっては、自社サーバーでフィルタリングを実行している場合もあれば、ユーザーがデバイスで使用するアプリケーションに検閲ルールを予め組み込んでいる場合もある。 Sina WeiboWeChat はともに、前者のアプローチ(サーバー側検閲)を使っているため、サーバー内で何が起こっているかを把握するのはとても難しい。

しかし、企業がユーザーのアプリケーション内コンテンツをフィルタイリングするために検閲実行の全ルールをデバイスのアリプリケーションに組み込んでいる(クライアント側検閲)場合は、研究者はいくつかの方法でその検証プロセスを調べることができる。多くのアプリケーションには検閲キーワードのリストが予め組み込まれていて、メッセージや投稿が入力されると、そのメッセージをチェックする仕組みになっている。そのため、ユーザーがリスト内のキーワードのひとつでも使用すれば、そのメッセージは送信されないことになる。Citizen Lab は、リバースエンジニアリングを使うことで、チャットアプリライブストリーミングモバイルゲームに組み込まれている、これらの検閲キーワードの完全リストを作成した。

自動フィルタリングに加えて、ネット上のコンテンツは投稿後に削除されることはよくある。2011年以来、Weiboscope は、あるコンピュータプログラムを使用して、5万以上の影響力のあるWeiboアカウントとともに、無作為に選んだユーザーのアカウントも追跡調査した。このプログラムは自動的に毎日、複数回、すべての新しい投稿を検索し、ダウンロードする。もしプログラムが投稿を再度チェックし、エラーメッセージ「permission denied(権限がありません)」が返ってきたら、その投稿は「検閲済み」と認識される。

2019年の第一四半期時点で、Weiboscope は8億1,000万件を超えるWeibo投稿を収集した。そのうちの70万件以上が投稿後検閲されていたことが確認されている。

6月4日の30周年記念日が近づく中、Weiboscope と Citizen Labは、中国のソーシャルメディア上でブロックされた画像やキーワードを載せた投稿の数々をまとめ、 「検閲の歴史:6月4日」として公開する予定だ。

胡耀邦元総書記の追悼式での写真。胡耀邦は、従来のマルクス主義から脱却するよう中国を導き、天安門事件で学生抗議行動のきっかけを作った。記事翻訳:「Since that day, the Chinese have no more ideals(あの日から、中国は理想を失った)」情報源: Weiboscope

一番最初の投稿 は、1989年4月15日に死去した、従来のマルクス主義から脱却するよう中国を導いた胡耀邦元総書記に関するものである。彼の死が1989年天安門広場における抗議行動の始まりを告げるデモのきっかけであった。

6月4日も近づいてきているので、さらなる89年民主化運動の逸話にも乞うご期待。
参照: Censored Histories: June 4 

参照: プロジェクトのWeiboscopeアーカイブ、 ウェッブサイトInstagramに検閲された6月4日関連のWeibo投稿が掲載

参照:Citizen Labアーカイブ、 GitHubに掲載されている6月4日関連ブラックリストキーワード

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