危険なプロパガンダをあおる「チープフェイク」 悪用された1999年コソボの画像

コソボからのアルバニア人難民を偽った画像のコラージュと1999年ロイターからのオリジナル画像。

ドレン・ゲルグリによるこの記事は、これまでにHive-MindEuropean Journalism Observatory (EJO) に掲載されました。著者の許可を得て編集版をGlobalVoicesに再掲しています。

画像を操作して真実とは異なる趣旨を加える、つまり虚偽の情報を伝えることは今日ではありふれたことである。説得力のある高解像度の偽物を作成できる高価なハードウェアやAIの仕組みが利用できるようになり、「ディープフェイク」と呼ばれる偽物が広まっている。テクノロジー業界やメディア業界にとっては、コンテンツが本物か偽物かを判断することがますます難しくなり、悩みの種だ。

しかしながら最近、一般向けのグラフィック・コントローラー価格の下落でディープフェイク・ツールがより入手しやすくなり、このような動向に対する懸念が高まっている。「チープフェイク」と呼ばれる新種が現れ、実際の動画再生速度を調整したり、画像の背景や細部に変更を加えて改ざんする。このような低精度な作品は、実際にはしてもいない発言や行動をまるで事実であるかのように描いたコンテンツを作り上げる、技術的に洗練されたディープフェイクとは異なる。

このように新たに出現してきたチープフェイクのテーマは、当たり障りのない娯楽から有害なものとなる得るプロパガンダにまで及ぶ。コンピュータか携帯電話の基本ソフトウェアさえあればよく、チープフェイクはますます増えており、わずかな操作で画像のメッセージを変えてしまう。

コソボ紛争中の1999年に公開されたロイターの画像の編集は、チープフェイクが問題となった一例である。それは、シェリフェ・ルタというアルバニア女性が2,000人の難民とともに、ブレイス国境検問所から北マケドニアに入国しようとしている様子だった。

2021年にロシアの国家機関が公開した改ざんされた画像のコラージュと、1999年にロイターが公開したオリジナル画像との比較。

20年後、同じ画像がインターネット上に再び現れた。しかし今度はプロパガンダに使用するために加工されていた。画像を見た人が、シェリーフェ・ルタはNATOの爆撃によるセルビア人犠牲者であると信じこむように編集されていたのだ。南アフリカのロシア大使館はTwitterに、この加工された画像を投稿した

NATOが国際法を完全に無視して主権国家を攻撃し#Yugoslaviaに死と破壊をもたらした日から今日で22年。NATOの78日間にわたる「人道的介入」は、2000人の罪のない人々の命を奪い、さらに数千人が難民となった。

このようなプロパガンダには、1999年のコソボでのNATOの介入が不当なものだったとするセルビアとロシアの主張を裏付ける狙いがあるようだ。このチープフェイク画像は、一見NATO爆撃の生存者を描いている。実際には、この写真の被写体もアルバニア難民のシェリフェ・ルタであり、彼女はセルビア軍によって故国を離れることを余儀なくされた。

プロパガンダを暴く

プロパガンダは無知と誤った情報を巧みに利用する。ロシアの外交官は、コソボについてほとんど知られていない世界でこの写真を非常に意図的に使用したのだ。

改ざんされた画像に騙される人がいるかもしれないが、それらが偽りであることを暴くのは簡単だ。例えば、「Google画像検索」オプションからヒントを得たり、比較することで画像が加工されているかどうかがわかる。その他の画像検証手段には、写真が最初にインターネット上に公開された時間を示すTinEyeや、写真が編集されたかどうか、どの部分が変更されたかを特定する無料のツールであるfotoforensics.comがある。

シェリフェ・ルタの画像がプロパガンダに利用されたのはこれが初めてではなかった。同じ画像が2014年8月に放送されたロシア国営通信社の番組で使われていた。

ロシア国営通信社がウクライナについて2014年に放送した番組のスクリーンショット。シェリフェ・ルタの加工された画像が使用されている。

そこでは、ロシアはシェリフェ・ルタをNATOによる爆撃のセルビア人犠牲者としてでっち上げていた。周りの難民は消去され、爆撃された建物が背景に追加されていたのだ。

チープフェイクに騙されないために

チープフェイクの世論に対する影響の全貌はわかっていない。しかしながら、長年ロシアがコソボでの戦争について誤った情報を世界中に広めてきたことは確かだ。

画像操作によってフェイクニュースが作られ、人々の意見に影響を与える可能性がある。だからこそ、チープフェイク画像が広く使用されていることへの意識を高め、一部の政府がプロパガンダツールとして利用していることへの認識を強くすることが重要である。

私たちが次世代に伝えることができる最も重要な教訓のひとつは、情報源をきっちりと念入りに調べ上げ、すべての視覚情報を注意深く評価して、誤解を招く危険な偽物を排除することである。

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