2021年8月1日夜、プエルトリコのジャスミン・カマチョ=クインが東京オリンピックの100mハードルで金メダルを獲得した。その瞬間、多くのプエルトリコ人が有頂天になり喜びに浸った。
プエルトリコは、 財政難、性差に基づく暴力、さらに公共サービスの低下や社会基盤の劣化など多くの悪条件に悩まされている。さらに、コロナ禍が追い打ちをかけている中で、カマチョ=クインの金メダル獲得という歴史的快挙は、ちょっとした明るいニュースとして皆から歓迎された。
カマチョ=クインは、プエルトリコに金メダルをもたらした、たった二人の選手の内の一人である。最初の選手は、5年前のリオデジャネイロ・オリンピックで優勝したテニスのモニカ・プイグである。
次の動画は歴史的瞬間を喜び合うカマチョ=クインの家族の様子である。
¡Celebra la familia de @JCamachoQuinn! La boricua logra medalla de oro en los #JuegosOlimpicos de #Tokyo2020 . @VoceroPR
— Giovanny Vega ?? (@GiovannyVegaPR) August 2, 2021
@JCamachoQuinn's family celebrates! Boricua wins gold medal at the #Tokyo2020 #OlympicGames.
J・カマチョ=クインの家族が大騒ぎをしている。プエルトリコ人が2020東京オリンピックで金メダルを取った。
しかし、彼女の偉業はこれだけにとどまらない。
この偉業は彼女の芯の強さを示すものである。初出場した2016年のオリンピックでは、準決勝で8番目のハードル(全設置数は10台)に足を引っかけてしまい、9番目のハードルに達するまでに体勢を立て直すことができず転倒してしまった。しかし、いまでは、すっかり立ち直り次のようなツイートをしている。
I AM AN OLYMPIC GOLD MEDALIST ???
— Jasmine Camacho-Quinn (@JCamachoQuinn) August 2, 2021
私こそ、オリンピックのゴールドメダリストだ。
人権派弁護士エバ・プラドスは、この歴史的快挙にまつわるある重大な事実に触れている。
Sabías que nuestras primeras y únicas dos medallas de oro en las Olimpiadas han sido traídas por dos MUJERES bajo la dirección de la 1era MUJER que preside el Comité Olímpico.
Hablar de eso es un ejemplo de la educación con #PerspectivaDeGenero en el deporte.
— Eva Prados (@evapradospr) August 2, 2021
プエルトリコのオリンピック金メダルは、後にも先にも二人の女子選手が獲得しただけです。これはプエルトリコ・オリンピック委員会初の女性委員長サラ・ロサリオの指導の下で実現したということをご存じですか。このような話ができるのも、スポーツにおけるジェンダー関連教育が徹底したおかげだといえます。
カマチョ=クインは、アメリカ在住のプエルトリコ人である。なお、プエルトリコは米国自治連邦区という特別な立場にあるが、国際オリンピック委員会(IOC)は1948年から、プエルトリコチームは合衆国とは別のチームとしてオリンピックに参加できることとしている。よって、プエルトリコ出身の選手は、自分の判断でどちらを代表するかを選ぶことができる。カマチョ=クインは、母の出身地であるプエルトリコを選んだ。
しかし、プエルトリコ人の中には、カマチョ=クインはアメリカで生まれ育ったのにプエルトリコ人といえるだろうかと疑問視する者もいる。一方、彼女がプエルトリコの旗の下で競技したことを、必死に擁護する人もいる。例えば、教育分野で活動するキシオマーラ・トーレス・リベラもその一人である。彼女は、オンライン雑誌トーダス(フェミニストの視点で発信している雑誌)上で次のように述べている。
No son pocas las personas que se han tomado el tiempo para expresar que Jasmine no es puertorriqueña porque ni siquiera entrena aquí. A esta discusión, podríamos traer el reclamo al Comité Olímpico y al gobierno de Puerto Rico para mejorar las condiciones de los y las atletas que sí entrenan aquí y no logran traer medallas, pero ese es otro tema. Los deportes siempre han sido una manera de manifestar nuestra existencia ante el mundo. De nombrarnos como otra cosa y de empeñarnos en reafirmar que no somos estadounidenses, que somos de Puerto Rico.
ジャスミンは、ここプエルトリコでトレーニングをしたことさえないのだからプエルトリコ人とはいえないとわざわざ指摘する人もかなりいる。この話とは別に、プエルトリコ・オリンピック委員会及びプエルトリコ政府に言いたいことは、プエルトリコでトレーニングをしてもなかなかメダルを取れない選手のために何らかの対策を採ってほしいということだ。しかし、ジャスミンとトレーニングの問題とは別の話である。スポーツはこれまでずっと我々の存在を世界に示すための手段であった。ジャスミンは金メダル取得により、我々はアメリカ人ではなくプエルトリコ人だということを示し、プエルトリコの存在感を世界に見せつけたのである。
ハーバード大学医学大学院教授の臨床心理学者ジェニー・
En las últimas olimpiadas, no dejaron de evaluar “cuán puertorriqueña” es Mónica Puig si “no habla bien el español y no se crió en la isla.” Ya veo el mismo discurso con Jasmine Camacho Quinn. ¿No se cansan de seguir aislando a otros? Lo viví toda mi vida y ya me cansa.
— Jenny Zhen Duan, PhD (@DrJennyZD) August 2, 2021
2016年のオリンピックで金メダルを獲得したモニカ・プイグは、スペイン語をまともに喋れないし、プエルトリコで育ったわけでもない。それなのに「プエルトリコ人」といえるのかという議論が絶えなかった。この議論は、ジャスミン・カマチョ=クインの場合にもあてはまる。周りの人をいつまで差別するつもりなのだろうか。私はずっと差別されてきた。そんな生活に疲れ切ってしまった。
匿名のツイッターユーザーは次のような意見を述べている。
Many Puerto Ricans live outside of Puerto Rico. And the goal for a lot of us is to become successful enough to move back to Puerto Rico and/or make our country proud. Jasmine Camacho-Quinn did just that. She accomplished THE goal. There's nothing else to discuss.
— Not pregnant just eating good.. (@I_Hate_Ted_Cruz) August 2, 2021
海外で生活するプエルトリコ人は大勢いる。そのようなプエルトリコ人は、故郷へ錦を飾りプエルトリコの名を高めようとしている。ジャスミン・カマチョ=クインは見事にその目標を達成した。これ以上何も言うことはない。
エール大学教授の神経科学者ダニエル・コロン・ラモスは、プエルトリコ人としての存在意義を定義するとともに、一つ重要な課題としてプエルトリコ人選手の練習に対して支援が不足しているという点についても触れている。
Hay un tema legitimo de reflexion en los logros de Camacho Quinn de cuantos atletas no habrian como ella si se apoyaran los que entrenan aca. Fuera de eso, para mi boricua es el que ama a PR y suda la patria. Lo otro es restarle merito a quien decide representar nuestra bandera.
— Daniel Colón-Ramos (@dacolon) August 1, 2021
カマチョ=クインが残した成果を見た時、当然ある疑問が湧き上がる。それは、プエルトリコ選手が当地で練習をして支援を受けたとしても、多くの選手はカマチョ=クインのような成果を残せなかったのではないかという疑問である。それはさておき、プエルトリコ人とは、プエルトリコを愛しプエルトリコのために最善を尽くす人だと私は考える。そうしなければ他に何をしても、プエルトリコ選手としての真価は失われてしまう。
ジャーナリストのアレハンドラ・ジョバーは、カマチョ=クインに関してもう一つ重要な点を指摘している。それは、彼女がオリンピックで優勝した際に当然話題にされて然るべきなのに見過ごされてしまったあることである。それは、彼女の人種的特性である。ジョバーは、自身のツイッターで、彼女の人種的特性が、なぜ称賛に値するほど重要なのかその理由を次のように説明している。
¿Saben por qué es importante? Porque son muchas, DEMASIADAS las niñas y mujeres negras de la Isla a las que se les ha hecho sentir como si fueran menos por su color de piel, por su cabello natural, por sus rasgos. Por su negritud. Y Jasmine ahora las representa y le da un rostro a la lucha por defender las raíces africanas en Puerto Rico, que muchos reniegan.
彼女の人種的特性が意味することを理解できますか。プエルトリコの黒人女性の多くは大人も子どもも劣等感を克服できずにいます。
皮膚の色や生まれながらの頭髪、そして容姿。 つまり黒人であることがその理由なのです。カマチョ=クインはア フリカにルーツを持つプエルトリコ人の立場を守ろうと矢面に立っ て努力しているのですが、受け入れられていません。
しかし、最も雄弁にカマチョ=クインついて語っているのは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校フェミニスト・スタディーズ教授マリソル・レブロンの言葉だろう。彼女は、プエルトリコ人がごく普通に体験する事例をツイートしている。
Anti-black and anti-diaspora clowns are questioning Jasmine Camacho-Quinn’s Puerto Ricanness when she literally broke a record in the most Puerto Rican of Olympic sports: the hurdles.
— Marisol LeBrón (@marisollebron) August 1, 2021
ジャスミン・カマチョ-クインは、多くのプエルトリコ選手の中でただ一人、オリンピック種目のハードルで記録を破った選手である。それなのに、反黒人を唱えたり海外からの移住に異論を唱えたりするおっちょこちょいは、彼女が真のプエルトリコ人といえるのかという疑問を投げかけている。
プエルトリコは、カマチョ=クインの金メダル獲得を機に、カリブ地域のバミューダおよびジャマイカと共に勝利を祝いあった。この祝勝会は、3つの金メダルが全て女子選手により獲得されたことで、より意義深いものになったと言える。