しゃれにならない選挙は笑い飛ばすしかない

シチズン・フォー・ヨーロピアン・マケドニア掲載の風刺画「ペツコ」、ダルコ・マルコビッチ画。使用許可済。

シチズン・フォー・ヨーロピアン・マケドニア掲載の風刺画「ペツコ」、ダルコ・マルコビッチ画。使用許可済。

選挙や選挙違反をネタにしたジョークは、現代バルカン諸国でよくある小話だ。この問題が地域一帯の住民の頭痛の種であることを反映している。モンテネグロやマケドニア、セルビアといった民主主義の歴史の浅い国では、投票箱で行われる不正は、まさしく現実の問題だ。俗に言う「笑い話にでもしないとやってられない」状態である。

こうした辛らつなジョークは、ソーシャルメディアや友人同士で広がることが多い。コピペ中心のエンタメサイトにも、膨大な寄せ集めに交じって、時折この手のジョークが載っている。

バルカン地域発祥のこうしたジョークを少しばかり見ていくとしよう。

「うちの父が投票に来るのを待ちたいんですよ」

こちらのジョークはモンテネグロからで、有権者が故人となっても選挙人名簿から名前が消されないという、広く知れ渡った習慣をネタにしたものだ。

Došao Crnogorac na biračko mjesto kako bi glasao.
Nakon završenog glasanja, zatraži od ljudi iz komisije da mu daju stolicu da sjedne.
– Izvolite stolicu, je li Vam dobro, gospodine?
– Ma dobro mi je, samo ću da sačekam oca da dođe na glasanje.
– Pa doći će Vam otac kući poslije glasanja?
– On ne dolazi kući, evo ima već 10 godina jer je umro, ali redovno izlazi na izbore pa rekoh da ga vidim…

あるモンテネグロ人が投票所へ選挙に行った。
投票の後、彼は選管委員に、椅子に座らせてくれと頼んだ。
「どうぞおかけください。ご気分でもお悪いのですか?」
「私は大丈夫です。ただ、うちの父が投票に来るのを待たせてもらいたいんですよ」
「では、お父さんは投票の後、家に帰られないんですか?」
「ええ、帰って来ません。父は10年前に亡くなりました。でもいつも選挙では投票してるんですよ。だから会ってみようと思って…」

この話そのものはモンテネグロ発という「商標」付きだが、変形版は他にも多くの国で見受けられる。ある英国の作家は1998年の記事で、1948年米大統領選選挙運動をネタにしたバージョンを記している。

「うちの村には子供がいないんですけど!」

次のジョークには、バルカン全域のフォーラムやソーシャルメディアに変種が存在する。こちらはセルビアのエンタメサイトで選挙ジョーク集に上がっていたものだ。

Kandidat za gradonačelnika u nekom selu drži govor, pa kaže:
– Do vašeg sela ćemo napraviti asfaltirani put! Napravit ćemo i vodovod! Izgradit ćemo i školu!
Netko iz mase:
– Ali u selu nema dece!
– I decu ćemo vam napraviti!

小さな村で候補者が選挙演説をしていた。
「我々は、この村までのアスファルト道路を作ります! 浄水場や屋内トイレも作ります! 学校も作ってあげましょう!」
聴衆の中のひとりが叫んだ。
「でもうちの村には子供はいないよ!」
「子供も作ってあげましょう!」

幼稚園と刑務所

他の多くのジョークと同じく次のジョークも、ネタ元は特定の国にもかかわらず、普遍的魅力がある。

Dođe premijer Srbije u posetu vrtiću. Gleda malo decu kako se igraju i kaže svom ministru finansija:
– Daj piši ček na 5.000 eura za poboljšanje životnih standarda u vrtićima!
I ovaj napiše ček, i idu dalje te dođu u zatvor. I gleda malo zatvorenike kako robuju i kaže:
– Daj piši ček na 500.000 eura za poboljšanje životnih uslova u zatvoru!
– Pa kako za decu 5.000, a za ove zločince i razbojnike 500.000? – kaže ministar finansija.
A, premijer će njemu: – A šta ti, misliš da ćeš ići u vrtić posle sledećih izbora?

セルビアの首相が幼稚園を視察した。子供たちの遊ぶ姿を見ながら、首相は財務相に言った。
「幼稚園の生活環境改善に5千ユーロの予算を割り当てろ!」
財務相は承諾した。それから2人は刑務所を視察した。囚人たちをしばらく見た後、首相は言った。
「刑務所の生活環境改善に50万ユーロの予算を割り当てろ!」
「なぜ子供たちには5千で、犯罪者や強盗どもに50万なんです?」財務相は尋ねた。
首相は答えた。
「選挙後の我々が、幼稚園に送られると思うかね?」

98%か2%か

疑わしい世論調査結果が宣伝材料に利用されるのはどこでもあることだが、それをネタにしたのがこのジョークである。セルビアのブロガーのジョーク集より。

Političar se obratio agenciji za ispitivanje javnog mišljenja:
– Imam osećaj da bi 98% građana ove zemlje glasalo za mene. Da li bi mogli to proveriti?
Dva meseca kasnije dobio je izveštaj:
– Gospodine, anketirali smo 10.000 ljudi i svi pripadaju onom malom postotku od 2% građana koji su protiv vas.

政治家が世論調査機関に自分の支持率調査を依頼した。
「国民の98%が私に投票してくれる感触があるんだが、確かめてくれるかね?」
2か月後、調査報告書が来た。
「お客様、当社では1万人を対象に調査を行いましたが、全員があなたを支持しない2%の国民に含まれておりました」

「ちょっと手を貸してくださいな、眼鏡を忘れたんでね」

2011年、ノヴァ・マケドニヤ紙がマケドニアの政治家たちに、お気に入りのジョークを挙げてもらった。以下は野党議員ヴェスナ・ベンデフスカから寄せられたものである。

Бабичка оди на гласање.
– Синко, помогни ми, те молам, ги заборавив очилата.
– Нема проблем, госпоѓо – вели еден новопечен административец и го заокружува лавчето на листот.
– Може ли да знам за кого гласав, синко?
– Не може, госпоѓо, изборите се тајни!

年とったおばあちゃんが投票に来た。
「お兄さん、ちょっと手を貸してくださいな、わたしゃ眼鏡を忘れてね」
「お安い御用です、マダム」と選管から来た新米公務員は言い、投票用紙の与党の候補に丸をつけた。
「私が誰に投票したのか教えてもらえますかえ、お兄さん?」
「いえマダム、投票結果の守秘義務違反になりますから」

「メルケル首相がグルエフスキ首相に電話で…」

次のジョークがからかっている元ネタと解釈できるのは、バルカンの右翼的な政党が、「姉妹政党」であるEU内の欧州人民党から、おそらく支援を受けているらしいことである。「他国の人々」からの支持があると「証明する」ことは、しばしば浮動票を獲得するカギとなる。一種の役割逆転が起き、マケドニアの与党、国家統一民主党党首ニコラ・グルエフスキが、ドイツ首相でドイツキリスト教民主同盟党首のアンゲラ・メルケルの助けになっている。

このジョークに出てくるミーレという人物はミーレ・ヤナキースキといい、大臣でグルエフスキの右腕である。現在はある選挙違反共謀事件の主犯容疑で取り調べを受けている。

Му ѕвони Ангела Меркел на Груевски:
– Никола, пријателе, ми треба помош од тебе. Во Германија ќе има избори и многу ми е тешко.
– Ангела, ако помогнеш да влеземе во ЕУ, нема проблем. Што да направам за тебе?
– Никола, ако можеш, испрати ми некој искусен стратег да ми помага!
– Нема проблем, Ангела, ќе ти го испратам Миле.
Поминале изборите и Груевски и ѕвони н Меркел:
– Ангела, што бидна, победивте ли?
– Не, завршивме на второ место и ги изгубивме изборите.
– Како така, а кој победи тогаш?
– ВМРО…

メルケル首相がグルエフスキ首相に電話した。
「わが友ニコラ、あなたの助けが必要なの。ドイツで選挙があって、苦戦しているのよ」
「アンゲラ、わが国のEU加入を支援してもらえるなら、喜んで。何をいたしましょうか?」
「ええと、あなたは負け知らずだそうね。もしできれば、経験豊富な戦略家を派遣していただけるかしら!」
「よろしいですよ、アンゲラ。ミーレを寄越しましょう」

選挙の後、グルエフスキ首相はメルケル首相に電話した。
「アンゲラ、どうしました、お礼の電話がありませんが?」
「でも勝てなかったんですもの、2位だったのよ」
「何ですと。ではどこが勝ったんです?」
「マケドニア国家統一民主党…」

「行き先はヨーロッパよ!」ダルコ・マルコビッチによる風刺画「ペツコ」、シチズン・フォー・ヨーロピアン・マケドニアに掲載。使用許可済

「行き先はヨーロッパよ!」ダルコ・マルコビッチによる風刺画「ペツコ」、シチズン・フォー・ヨーロピアン・マケドニアに掲載。使用許可済。

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