この寄稿は、オンタリオ工科大学の社会言語学者、Allyson Eamer氏によるものである。この記事はEthnos Projectのブログに公開されたものを元に書かれている。
10日から14日に1言語のペースで、世界中の死に絶えつつある言語が消滅している。このような言語を消滅から救う取り組みの中で、話者や学者、IT専門家が協力し、言語の復活のためにデジタル技術をいかに利用するか、方策を探っている。
政治的、経済的に力の強い言葉を話者が次第に使うようになることで、元々そこで話されていた言語はやがて消滅の危機にさらされる。そのような移行が起こるのは、植民地政策や領土拡張政策が原因であることが多い。帝国建設者たちに割譲されたものとして先住民および固有の文化や土地が見なされるからだ。
言語における適者生存の考え方、つまり、「言語ダーウィン主義」とも呼べる考え方に、意外なことにも平然としている学者がいる。そのような学者はこう言うかもしれない。「我々がみな同じ言語を話せば、もっとやりやすくならないか?」
各言語が独自の世界観をいかに言語化しているかについて、私はここで詳しく語ろうとは思っていない。例えば、ある言語の語彙がその言語を話す人々の価値観をいかにあらわにしているか、経験的な知識が言語の特徴にいかに含まれているか、芸術、自己表現、歴史、文化、経済、そしてアイデンティティーがいかに密接に言語とつながっているか、などに深く立ち入るつもりはない。むしろ、私と同じように皆さんも、言語の消滅は悲劇であると信じ、世界中の先住民たちが失ってきたものはあまりに多いと強く感じているという想定で話を進めたいと思う。
技術は、時と場所を超えて、言語の教師や教材を学習者と結び付けることができる。消滅の危機にある言語を音声録音で記録することができる。簡単に、そしてすぐに、カリキュラムと教材を作成し、配布することができる。ゲームや、クラウドベースのダウンロードやアプリを通して、自立した学習を促進することができる。先生と学習者が一方向あるいは双方向でつながることができる。
進んだ考えを持つ人の中には、かつてない程に発達した技術の力を使って、いくつもの絶滅寸前の言葉を救っている人たちがいる。そして、まれなケースではあるが、絶滅した言葉を復活させようとする試みも行われている。
デジタル技術がこうした取り組みの中でどのように使わているか、さっと紹介しよう。
ヨーロッパ
- ノルウェーの北サーミ語。ダウンロード可能な辞書の作成が進んでいる。
- ゲール語。ゲール語ブロガーがこのアイルランドの言葉の使用法について役立つアドバイス集を公開している。
- マン島の固有の言語、マンクス語。マンクス語を学ぶ学生たちがスマートフォンやタブレットのアプリを使って自分たちの語学スキルを磨いている。
北アメリカ
- 米国南西部で話されているナバホ語。CD-ROMを使った独学コースが開発された。
- 米国南中央地域で話されているチェロキー語。学習者が仮想空間でコミュニケーションを取ることができる。
- カナダ、マニトバ州のオジブウェー語。再びこの言葉に命を与えるために、iPhoneのアプリが使われている。同様の試みが米国中西部のウィネベーゴ族の言葉でも行われている。
アフリカ
- ケニアの口頭言語。データベースの開発が行われている。
- マリの固有の言葉。この言葉を使って古くから伝わる物語の記録が行われている。
- スペイン領カナリア諸島の口笛言語。オンライン語学学習サービス会社がこの言語のコースを提供している。
中央アメリカ、南アメリカ
- キンセジェ語。この言語の草分け的な記録がブラジルで完成されようとしている。
- エルサルバドル、ピピル語。音声付き辞書が開発されている。
- パラグアイ、アチェ族。身の上話を語り、それを記録する取り組みが続いている。
アジア
- 中国の少数言語。読み聞かせソフトが対応している言語がある。
- ウズベキスタンのタジク語。レッスンがYouTubeで利用可能になった。
- インドの文書化されていない言語、合わせて780言語が、その輪郭が明らかにされ、オンラインにアーカイブされた。
北極圏
- 北極圏の言語の一つであるイヌクティトゥト語。非同期型のオンラインレッスンが利用可能になった。
中東
- イラクで話されているカルデア語。カルデア語で語られるストーリーをオンラインで聞くことで、話者の発音がより流暢になる。
太平洋地域
固有言語の教育用に使用されている技術の最新情報については、Allyson Eamerが管理しているコンテンツサイトを参照のこと。